November 2016

COSTUME DRAMA

謎の大富豪が主催した仮面舞踏会

text nick foulkes

ラビア宮殿の外に高まる期待

大戦下に作られた天国 グルッセー城は優雅さと心地よさを備えた魅惑的な土地だったが、歴史の潮流は、すべて城壁の外側で旋回していた。

 ヨーロッパ全体が、飢餓に苦しみ凍えている中、ベイステギは以前と変わりなく享楽に耽っていた。室内はストーブで暖められ、磨かれたダイニングテーブルには、マイセン磁器にたっぷりと盛りつけられた料理が並べられる。戦時中で皆が痩せ細っていく中、ベイステギだけはでっぷりと太っていった。

 友人の一人は、このように回顧している。

「グルッセー城はまるで天国でした。コクトーやクリスチャン・ベラールといった当時の著名人たちは皆そこに集まっていました。それに彼は、大使館を通じてチョコレートや石けんを手に入れていました。応接間のカーテンさえも送られたものだった」

 彼が享受していた生活はまるで毛皮のように柔らかだったが、心はダイヤモンドのように固かった。「ベイステギは全く冷酷だった。同情や思いやり、感謝といった資質が完全に欠けていた。今まで出会った中の誰よりも、自分自身に没頭し、楽しみを探す人だった」とビートンは日記に記している。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 08
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