January 2022

WHAT SLIM SAW

写真家 スリム・アーロンズが見たもの

第二次世界大戦中に戦場カメラマンとしてキャリアをスタートさせたスリム・アーロンズは、その後、ひたすらプールサイドに寝転ぶ富裕層の人々を撮影した。
その構図と被写体は素晴らしかった。
ジェットセッターの記録者、ハイソサエティを代表する印象派としてのアーロンズの伝説は、今、再び見直されている。
text nick foulkes

ディーノ・ペッシ・ブラントのヨットにて。マルベーリャ(1967年)。

「私はおとぎ話を信じている。60年間、魅力的な場所で、魅力的なことをしている、魅力的な人々を撮影してきた」

 この言葉には、F・スコット・フィッツジェラルド風の響きがある。小説の導入部としては、とてもいい感じだ。これは、写真家スリム・アーロンズが語った言葉である。2003年に出版した写真集『Once Upon a Time』よりとられた。この本はアーロンズを知らない若い世代に、その作品を紹介するものだった。

 アーロンズはその3年後に89歳で亡くなったが、長生きしたため、自らの人気が復活するのを目の当たりにできた。世界大手のフォト・エージェンシー、ゲッティ イメージズは、アーロンズのアーカイブをすべて購入した。

 スリム・アーロンズの本は、これが初めてではない。その約30年前に『A Wonderful Time』を出版している。1974年の書評で、「ニューヨーク・タイムズ」紙はこの本を、その年に出版された写真集の中でも“ 最も嫌悪感を抱くもの”、“T.S.エリオットさえも退廃的に見せてしまうような、金持ちの家、人々、リゾートの風景”と評した。

イギリス出征中の隊員の振る舞いについて書いたブックレットを手にするアーロンズ(1942年)。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 42
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