November 2016

COSTUME DRAMA

謎の大富豪が主催した仮面舞踏会

text nick foulkes

アレクサンドル・セレブリャコフの『ヴェネチアの怪人』(部分)

コスチュームに彩られた独特な光景 コスチュームに彩られた独特な光景ある一行は、18世紀の中国大使とその妻の衣装に55000ドルもかけたという。金糸で刺繍を施したローブを身に纏い、多くの友人や親戚を同席させていた。その全員がマスクと異常に長い付け爪をつけており、ケージに入った鳥などを小道具として持って雰囲気を高めていた。バーバラ・ハットンはモーツァルトの衣装に15000ドルかけたと言われている。

 一方で、少ない予算でやりくりした者もいた。ジーン・ティアニーは15ドルほどで田舎の小作農の格好をし、籠いっぱいの野菜を抱えていたが、とても魅力的だった。

 ファッションデザイナーのジャック・ファットは、衣装を15着ほど用意したが、そのうち最も目を引いたのが彼自身の着ている衣装だった。金と白のコスチュームで太陽王として登場したが、この夜の豪華な基準と照らし合わせても、やり過ぎとみなされた。

 対照的に、ジャクリーン・ド・リブは繊細な衣装だった。最後に招待された、一番若い客だったため、衣装にかける時間がほとんどなかったのだ。

「私を三人作ろうと決めました。それで、同じくらいの体型の女性を招待者の中から二人見つけなければなりませんでしたが、ベイステギが助けてくれました」

 紹介されたのはコーラ・ガエターニ王妃とタティアナ・コロンナ。二人ともまだ衣装が用意できていなかった上、ジャクリーンほど裕福ではなかったため、人の分も衣装代も払うことになった。

「刺繍入りのシルクとアンティークのレースでデザインしました。二人に同じカツラをつけるようにお願いして、すべてが一緒に見えるようにしました」

 黒いマスクと合わせて衣装を身に纏うと、三人の女性は全く同じに見えた。その効果は絶大で、謎の女性三人組はこの夜最も写真を撮られたグループのひとつとなった。

 最も人々の記憶に残ったのは、ピエール・カルダンが、サルバドール・ダリとクリスチャン・ディオールのために作った衣装だった。ヴェネチアの怪人という名前の下、彼らは白いガウンに黒い帽子をかぶって骸骨の様相をし、6体の妖怪として登場した。

 度々ベストドレッサーに選ばれているデイジー・フェローズは、ティエポロのフラスコ画に描かれたアフリカ女王を演じた。インパクトある大胆なヒョウ柄の毛皮をあしらったドレスと合わせたのは、有名な「ヒンドゥー・ネックレス」。プラチナ、ダイヤモンド、エメラルド、サファイアをトゥッティフルッティ・スタイルで組み合わせた、カルティエのジュエリーである。

 さらに彼女は、衣装の仕上げとして、肌を露出したお付きの男たちを従えた。これほどまでに美しく宝石の着飾り方も上手い彼女だったが、その夜一番美しいと称されたダイアナ・クーパーの前では影が薄かった。

ジャック・ファットと妻がゴンドラで到着

THE RAKE JAPAN EDITION issue 08
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