March 2024

A super sad true love story

悲劇の写真家、ボブ・カルロス・クラーク

『Marco With Meat Cleaver(肉切り包丁を持つマルコ)』(1990年)
IMAGE: REX FEATURES

「ある美しい女性を撮影した後、彼は『面白いと思わないかい? 僕が撮影したときより、彼女はすでに老いているんだ』と言ったのよ。撮影はたった2日前だったのに。そして『彼女は年を取り、老いさらばえてしまうけれど、僕のカメラの中には永遠に存在するんだ』と語ったわ」

 カルロス・クラークは、裸のポートレートを焼き付けるとき、一種の“寂しさ”を経験すると告白した。

「数カ月もしくは数年にわたってひとりの女性に密着し、創造力のすべてを注ぎ込むという行為は、男にとってセックスにきわめて近い経験だ。やがて興奮が鎮まり、最後の写真を撮った瞬間は、まるで愛人を失うような感覚だ」

ザ・ジャッカルと名を変えて 年齢は彼から生気を奪った。カルロス・クラークは年を取ることをひどく恐れていた。友人であった写真家のテレンス・ドノヴァンが自殺したことで、彼はさらに“死”を考えるようになった。

 90年代になると、新時代の写真家たちの登場や、性描写への規制で、彼の人気は下火になった。またデジタル革命も、彼が極めた暗室の魔術を時代遅れにした。

 そこで彼は広告の仕事を獲得すべく、“ザ・ジャッカル”という仮名を使って、別人として活動し始めた。アーバンストーンというファッションブランドのキャンペーンを担当したが、猥褻だという理由で、ポスターの1枚が発禁となった。

 一方、彼が撮影した若きシェフ、マルコ・ピエール・ホワイトの肖像写真は、はつらつとして生命感にあふれており、多くのシェフがスターになるきっかけとなった。エロティックな女性の写真をあれほど多く手がけたにも関わらず、最も有名な作品がエプロンを着た男の写真だというのも、実に皮肉なものだ。

 彼に求められていたのは、自分の作風を破り、一本調子のエロチカを超える作品を創ることだった。そこで開催したのが、「Love-Dolls Never Die(ラブドールは死なず)」という展覧会だ。ブラックユーモアを交えつつ、家庭生活と性風俗を通じて、強い女性を表現した。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 15
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