Thursday, May 30th, 2019

A SHOT AT THE BIG TIME
貴族のための最後のスポーツ

貴族ならではの非常識
 ウィンストン・チャーチルの父、ランドルフ・チャーチル卿は、別の招待客のペットのダックスフントを猟場で誤射してしまった。大したことではないと考えたランドルフは、犬の亡骸をロンドン随一の剥製師のもとへ運び、完成した品を飼い主に贈り物として差し出したという。
 私が2012年に『タトラー』誌で働き始めたとき、観るように言われDVDを注文した映画が『The Shooting Party』(1985年)だ。舞台は第一次世界大戦直前の英国の遊猟会である。当時の風習をセピア色で情緒的に描いている。勢子を誤射したハートリップ卿に対し、ラルフ・ネトルビーが「君の撃ち方は紳士らしくなかった!」と怒鳴るシーンなどは絶妙だ。
 英国貴族が穏やかな日々を過ごしたこの時代、7日間に及ぶ遊猟会も珍しくなかった(現実的な事情も一因だった。V8エンジン搭載のレンジローバーが開発されるまで、スコットランドの遊猟地へたどり着くには今よりはるかに時間がかかったのだ)。複数回の衣装替えも必須で、遊猟会の昼食は(スタッフにとって)厳しい試練だった。リネンのテーブルクロスと陶磁器を使って野外で提供された昼食は、チーズで締めくくられるフルコースだった。
 英国最高の射手が誕生したのもこの時代だ。第2代リポン侯は、55万6,000羽(うちキジは24万1,000羽)という史上最大数の鳥を仕留めたとされている。貴族がブラブラしていたなんて、一体誰が言ったのだろう。

イレブンジズとは何か?
 最近の遊猟界は、高齢男性が集う風通しの悪い同好会のような状況から、わずかに脱却したようだ。上流階級の人々が、金持ちや著名人らと交流するようになったのだ。例えば貴族階級出身の映画監督、ガイ・リッチーは、ヤマウズラ狩りにデヴィッド・ベッカムを招待するし、ロシア出身のファッション界の大物、レオン・マックスは、18世紀の邸宅イーストン・ネストンで遊猟会を開き、伯爵、モデル、女優といった人々を招待している。素晴らしい料理が出され、邸宅は寒さともお湯が不足するような事態とも無縁だ。
 一部の遊猟会で供される昼食は、エドワード7世時代の様式を見事に保っている。“イレブンジズ”も、今なお重要な伝統である。11時頃に休憩し、持参したソーセージ、スロージン、ポークパイ、ブルショット、ブラッディメアリー、チーズストローといった料理や飲み物をいただくのが通例だ。時にはスローガズム(シャンパン入りスロージン)も持参する。
 ある上流階級の友人は、「イレブンジズを食べるのが、体重を増やす一番の近道よ」と茶化す。私が2~3年前に行った遊猟会には、飛行機で渡英してきた、アメリカン・エキスプレスの重役たちが参加していた。彼らはイレブンジズの発音のコツがつかめず、毎回「イレブンジーーズ!」と言っては高笑いしていた。
 数年前にロンドンに越してきて、非常に熱心に遊猟に取り組むようになったインド人の友人サムは、うまく溶け込みたいと言う初心者にこうアドバイスする。「1日が始まって間もない段階で、自分はまるきり下手で、ここへは勉強するために来たと声高に宣言すること。このスポーツをやりたいとずっと思っていたが、ものになるかどうか非常に心配だと」

ウェールズ北部で遊猟するウィンストン・チャーチル。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 27
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