Through the looking glass

ロスチャイルド家のパーティへようこそ

June 2019

text stuart husband

1972年、権勢を誇った、シャトー・ド・フェリエールの正面部分。

“ロスチャイルド”の意味するもの ギー・ド・ロスチャイルド男爵は1909年生まれで、貸金業者として一族の礎を築いたマイアー・アムシェル・ロスチャイルドの玄孫に当たり、桁外れに裕福な家庭環境で育った。

 両親が所有していたリヴォリ通りとコンコルド広場の角地に立つ自宅は、かつてはタレーランが住んでおり、現在はアメリカ大使館として使われている。彼はフランス語よりも先に英語を話すようになった。母親からこう教え込まれていたという。

「イギリス貴族というのは、世の誰よりも素晴らしい」

 そのため男爵はゴルフが得意で、フランスのナショナルチームに所属するほどの腕前だった。

 第二次大戦中は兵役に就いたが、配属された貨物船が魚雷攻撃を受け沈没し、彼の乗ったゴムボートは、凍えるような寒さの中、大西洋を12時間もさまよった。ロンドンにたどり着き、従兄弟のジミーが口に含ませてくれたワインで意識を取り戻したが、そのときのワインは、もちろんラフィット・ロートシルトで、ヴィンテージは1895年だったという。

 その後は、とりわけ競馬に熱を入れるようになり、愛馬がパリ大賞典やサンクルー大賞典(いずれも欧州のG1級レース)で優勝したこともあった。

 競馬場は、ギーとマリー・エレーヌのふたりを結び付けた場所でもあった。ふたりの出会いは、シャンソン歌手エディット・ピアフのステージが開かれた、ドーヴィル競馬場でのフェスティバルだった。彼はこのとき、サラブレッドのブリーダーをしていたとある伯爵に、ラフィット2ケースを賞品として贈ったのだが、この伯爵が偶然にも、マリー・エレーヌのひとり目の夫だったのだ。

 ギー男爵は、この若き伯爵夫人にすっかり心を奪われた。ふたりの出会いの場面のBGMに、ピアフの名曲、『水に流して』の「私は後悔しない、もう過去のことはどうでもいいの……」という歌が流れていたとか、いないとか。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 15
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