Wednesday, October 9th, 2019

The siren’s call:how Brigitte Bardot redefined female sexuality
セイレーンの呼び声―ブリジット・バルドー

彼女はまるで、当時の重苦しい空気を吹き飛ばす、一陣の爽やかな風だった。フランス初の世界的大スターは、
“セクシーな子猫”の役を見事に演じ、それを体現してみせた。彼女の非凡な人生と多彩な恋愛遍歴にスポットを当てる。
text nick scott

 映画史上最もセクシーなシーンは、何だろう?
 1973年のサイコスリラー『赤い影』でドナルド・サザーランドとジュリー・クリスティが演じた、ヴェネツィアでの激しい交わりもいいが、ベストではない。2010年の『ブラック・スワン』でミラ・クニスとナタリー・ポートマンが見せた、女性同士の密会も違う。『イディオッツ』でラース・フォン・トリアーが描いた性の饗宴でもなければ、『つぐない』でキーラ・ナイトレイとジェームズ・マカヴォイが熱演した、本棚にもたれたまま絡み合う場面でもない。
 映画フィルムに残る最もセクシーなシーンは、ヌードやセックスとは無縁なのだ。BGMもテナー・サックスが奏でるなまめかしい曲などではなく、激しく打ち鳴らされるボンゴのリズムだ。
 ご明察の通り、私が思い浮かべているのは、『素直な悪女』に出てくる有名なダンスシーンである。舞台は1950年代のサントロペ。奔放な性を謳歌する若き孤児に扮したのは、ブリジット・バルドーであった。バルドーは男たちのために、テーブルの上でダンスする。素足で髪を乱し、スカートを激しく揺らしながら、溢れんばかりの色気を全身から放つ。
 このシーンを演じられたのは、きっとバルドーだけだった。彼女がいなければ、あの映画は成功しなかったはずだ。バルドーの輝くような性的魅力は、彼女だけのものだからだ。
 確かに彼女は前歯に隙間があったし、口をとがらせていると、その横顔はちょっとツンケンしているように見えた。だが、こうした外見上のわずかな欠点は、猫のような目、ふわりと風に舞う髪、ふっくらとした唇といった、セクシーな部分をさらに際立たせた。パリ音楽院でのバレエレッスンによって鍛えられたボディも、彼女の強力な武器だった。

新しいセックスシンボル

「世の中には美女がゴマンといますが、バルドーは別格です。それは彼女にしか持ち得ない、独特の美です」と、キングス・カレッジ・ロンドンの映画学教授、ジネット・ヴァンサンドーは語る。
「バルドーは当時、旧習を打破してタブーを犯す、掟破りの存在でした。そして女性解放の象徴でもありました。彼女の場合、それは主に性的な解放を意味しましたが、女性の解放は他の分野でも始まっていました。バルドー自身はフェミニストではありませんが、フェミニストの原型といえる人物です。セックスシンボルでありながら、自らの欲望に正直でもありました。強烈な個性を持ち、自分の欲しいものを何でも手に入れ、しかも男性を喜ばせる方法をも知っていました」
 では、その他大勢の“セクシーな若い女性”との違いは何だったのだろう?
「セクシーさに関して言えば、例えばマリリン・モンローには、非常にもろい雰囲気がありました。ところがバルドーはたくましい。自然体で自信に満ちていました。彼女の最大の魅力となったのが、あの生意気さです。彼女は批判されると反論しましたが、それさえ魅力的でした」
 誰よりもそう感じていたのは、バルドー自身だっただろう。その証拠に、かつて彼女は「やんちゃで自由奔放な私を見て眉をひそめた人もいたけれど、しがらみから解放された人もいたわ」と述べた。
 バルドーの中で渦巻いていた性愛のエネルギーは、年下の女優、レティシア・カスタへの助言が物語っている。2010年の伝記映画『ゲンスブールと女たち』でバルドー役を演じたカスタによると、役作りをする彼女に対し、バルドーは「部屋に入るときは顔を上げて、全員と寝たがっているような表情をするのよ」とアドバイスしたという。
 自らを「お粗末な女優」と呼んだバルドーは、性欲の旺盛な女性を演じる必要などなかったはずだ。なぜなら彼女自身の実生活における恋愛遍歴は、まさに“驚異的”であるからだ。

ブリジット・バルドー 1974年。

『私生活』でのマルチェロ・マストロヤンニとの共演シーン(1962年)。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 16
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