THE RAKE PERSONIFIED
小説家ジェイ・マキナニーのスタイル
January 2020
ニューヨークの老舗、ミラーズ オースのコートにチェザレ・アットリーニのスカーフを合わせて。シューズはボントーニ。
W:私は高校生のときに拝読したあなたの本に触発されて、ナイトクラブにコソコソ行くようになりました。あなたが描写した世界の一員になりたくて。素敵な服を着ることが、中に入れてもらう唯一の方法でしたから、ファッションを追求し始めたきっかけはあなたの本なんです。
J:面白いですね。当時の独創的なナイトクラブを渡り歩く私の写真を見ると、ほとんどスーツとタイを身に着けているんです。スーツを着ていないと適切な服装とは見なされませんでしたから。あれはヨーロッパ文化の名残だったのだと思います。その前の10年に名を馳せたナイトクラブの影響ですね。精神的にはだらしない状態だったのに外見は常にめかし込んでいたことは、滑稽でしたね(笑)。
W:90年代ニューヨークを象徴するクラブの各店で、この状態が続くわけですね。
J:毎晩、多様性とクールさを兼ね備えた超一流の客を選り抜き、勢揃いさせるなんて目的を持った場所はもうないと思うのです。ネルズは間違いなくそうでした。客は見事に選ばれていて、まさに常連が集う一流のナイトクラブでした。「自分の若い頃は」なんて語る年寄りの仲間入りはしたくありませんが、今日のクラブカルチャーは異質。利益ばかり目指していて、センスとは真逆に向かっています。
W:それが今に蔓延る、野暮で陳腐な空気を醸成・助長しているわけですね。あの頃素敵だったのは、いったん入場すれば、ある種の平等主義が存在したこと。店内に入れるということだけで、クールであるということですから、皆が友好的で……。
J:その通り。思い出に残っているのは、ブレット・イーストン・エリス、タマ・ジャノウィッツ、出版社の方とテーブルに着いていたときに男性がやってきて、私をアン・ハーストに引き合わせてくれたことです。それから何年も経って、彼女は私の妻になるわけですが。彼女は、シャネルを着ていて、まさに富裕層の女性でしたが、すぐに信頼関係が生まれましたね。あれはある意味、思いもよらない出会いでした。当時のニューヨークのナイトクラブが、思わぬ運命をもたらす場所であったことを物語っています。
本記事は2019年9月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。
THE RAKE JAPAN EDITION issue 29