THE MAN WHO WOULD BE KING

俳優:レイフ・ファインズ
世界を救う英国紳士

November 2020

text shiho atsumi photography aflo

オフィシャル・シークレット監督:ギャヴィン・フッド
出演:キーラ・ナイトレイ、マット・スミス、マシュー・グード、レイフ・ファインズほか
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES全国公開中
Photo by: Nick Wall ©Official Secrets Holdings, LLC
2011年の米国同時多発テロの後、イラクを攻撃するためのアメリカの違法な工作活動と、それに対するイギリスの関与を告発した、英国諜報機関の女性職員の実話を映画化。ファインズは、告発によって国に追い詰められ窮地に立たされた彼女を、法律を盾に守る正義派の弁護士役。

荒唐無稽なスパイ映画を
現実世界に着地させる存在
 歳を重ねたこのタイミングで演じたスパイは、それゆえの思い入れを持って、型破りなエンターテインメント作を現実の感情につなぎとめることにも成功している。

「この作品で最も惹かれたのは、オックスフォード公とその息子コンラッドとの間の、とても複雑な、感情面での緊迫感だったと思う。オックスフォード公は冒頭、何年間もずっと悲しみと喪失の日々を送っている男として登場する。平和主義者で、コンラッドに対しては極端に過保護でもある。彼は息子に『戦場に駆けつけることだけが、本物の勇気ではない。敵に勝ちたいなら、戦う相手を知り、弱点を理解することだ』と言い、組織に取り込もうとするんだ。実際、オックスフォード公自身は若い頃に戦争に行き、その勇敢さで勲章を与えられている。だが同時に、戦争に対する深い憎悪を持つようになっているんだよ」

 オックスフォード公父子の関係は、シリーズ前2作の主人公、ハリー(コリン・ファース)とエグジー(タロン・エガートン)の疑似的な父子関係を引き継いだものだが、そこにもまたシリーズの哲学が描かれている。ハリーの教育により労働者階級のエグジーは、権威としての階級とは切り離された、真の紳士―人となりや振る舞い、人生における責任のとり方など―の行動規範を獲得してゆく。何を演じても決して揺るがない“紳士らしさ”を備えたファインズは、それこそが「悪と対抗する手段」だと語り、その説得力で荒唐無稽な世界観の向こうに現実世界を透けて見せる。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 36
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