Monday, September 30th, 2019

MANNERS MAKETH MAN COLIN FIRTH
最強のジェントルマン、コリン・ファース

世界的に大ヒットした映画『キングスマン』の続編、『キングスマン:ゴールデン・
サークル』の公開で、前作の死からまさかの復活を遂げるコリン・ファース。
思えば当然のことだ。「英国らしさ」こそが、作品の精神的支柱なのだから。
text shiho atsumi

 ロンドン、サヴィル・ロウの高級テーラーを隠れ蓑にした、どこの国にも属さない世界最強のスパイ機関「キングスマン」。その活躍を描いた『キングスマン』は3年前に世界的なヒットを記録したイギリス映画だ。「イギリス」「スパイ」とくれば、当然思い浮かぶのはジェームズ・ボンドだが、映画はそのボンドの世界観――あらゆる部分に貫かれた英国スタイルや、ユニークなガジェット――を踏襲した楽しみに満ちている。主演のコリン・ファースは語る。
「60年代に育つと、この手の物事を楽しむようになるんだ。スパイ映画のスタイルとキャラクター、そのルーツは60年代にある。それは私が愛してやまないものだ。ハリー・パーマーの映画『国際諜報局』、ジョン・スティードのテレビシリーズ『おしゃれ㊙️探偵』、初期の“007”。スーツに身を包み、如才なくクールで優秀で、さらにめちゃくちゃ冷静。彼を超えてゆくなら死を覚悟しなきゃいけない。これらは私が子供の頃、映画と恋に落ちた頃に愛していたものだよ。この手の映画に出ることを私は夢見ていたんだ」

最も「英国紳士」なアクター

 ジェーン・オースティン原作のTVドラマ『高慢と偏見』や映画『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズでいかにもイギリスらしい口下手なインテリを演じ、『シングルマン』『英国王のスピーチ』で折り目正しいスーツの着こなしを見せたコリン・ファースは、今の映画界で「英国紳士」のイメージを最も体現する俳優だ。
 彼が『キングスマン』の主役ハリー・ハートを演じることになったのは54歳。だがアクションの面においてさほど心配しなかったのは、もうひとりの主人公エグジーを演じる新星タロン・エガートンの存在があったからだ。ハリーが町のチンピラであるエグジーをスパイとして仕込んでゆくスパイ版『マイ・フェア・レディ』で、コリンの役割は師匠=ヒギンズ教授。アクションの多くは若手の弟子が担当するのだろうと。だが予想は大きく覆された――というより、度肝を抜かれたというほうが正しいだろう。コリン・ファースは言う。
「私はずーっとジェームズ・ボンドのオファーが来るのを待っていたんだけど、声をかけてくれたのは(この作品の監督の)マシュー・ヴォーンだった。いいコンビネーションだと思ってくれたんだろうね。彼は人々が考えることを予測してひっくり返すのが好きなんだよ。そして私のところに来て、こう言ったんだ。『人々はあなたが“誰かのケツを蹴っ飛ばすタイプ”とは夢にも思わない。だからこそやってもらいたいんだ。ものすごいサプライズになると思うから』とね」
 観客の心に、おそらく10年後も残るだろうその場面は、ケンタッキーの教会でハリーが繰り広げる文字通りの“100人斬り”だ。IT企業のCEOに電波を操られた人々が、狂気に陥り殺し合いを始める。そこに巻き込まれたハリーは、襲いかかってくる人々を、ハイテンションなロックに乗って手当たり次第に倒してゆく。拳銃に始まりナイフに斧、時には燭台に聖書などを武器に、あるときは誰かの頭にナイフを突き刺し、あるときは誰かを盾に身を守りながら(コリン・ファースの実の祖父母が宣教師であることを思えば、恐ろしくイギリス的なブラックなジョークといえるかもしれない)。だがもっと驚かされるのは、戦いを終えて教会から出た直後、ハリーがあっさりと撃ち殺されてしまうことだ。主人公が作品の半ばで死んでしまうとは。なんと。
「前作の『キングスマン』では非常に明確だった。マシューは『君のキャラクターは死ぬ。残酷に』と言った。救済措置はなかったんだ。でもそのうちにだんだんと、どうやって彼を生き返らせようか、というやりとりが始まった。もちろん“邪悪な双子の片割れ”のようなやりつくされたアイディアは出なかったけれど。それに目的は作品に“コリン・ファース”を戻すことではなく、キャラクターの関係を戻す方法についてだったんだ」
 そうした議論の末に完成した『キングスマン:ゴールデン・サークル』は、ファンが抱える「ハリーはどこかで生きているはず」という思いを回収しながら、弟子=タロン・エガートンがいうところの「エグジーとオビ=ワン・ケノービ型の父親代わり」の関係を描いてゆく。ある荒唐無稽な方法で命をつないでいたハリーと再会したエグジーは、彼が自分の知るハリーとは――アイパッチのビジュアルも含め――別人であることに衝撃を受ける。
「前作で役を“当て書き”したいと思っていたマシューは、脚本執筆の初期段階で私と会った。だからハリー役をすごく自然に演じられた。でも今回はもう少し複雑で、気を抜かないように演じなければならなかったね。以前の彼らしい行動をとるところは間違いなくあって、観客が気に入ったキャラクターのままだが、そうでなくなる瞬間もある。油断できなかったのは作品の中盤。彼が口ごもることに気づくと思う。ハリーは戻ってきた。でも完全に、ではないんだ」

Colin Firthコリン・ファース
1960年イギリス出身。舞台で活躍の後、’84年に『アナザーカントリー』で映画初出演、『高慢と偏見』、『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズで世界的なスターに。’09年の『シングルマン』でヴェネツィア国際映画祭男優賞、’10年には『英国王のスピーチ』でアカデミー主演男優賞を受賞。

2014年公開の前作『キングスマン』。コリン・ファースは、スパイ組織のエース・エージェント、ハリー・ハート役を演じた。組織の本拠地となった店舗は、ロンドンのサヴィル・ロウに実在する老舗高級テーラー「ハンツマン」がロケ地。古きよき英国らしさを残すクラシックスーツスタイルは、ファッション業界でも話題に。
Photo by Photofest/Getty Images

THE RAKE JAPAN EDITION issue 19
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