The 10 MOST Rakish JAPANESE SHOMAKERS: Ann.
アン:ブロックから削り出すラストメイキングの奇才
July 2021
無骨すぎてそれがセクシーでもある。
ヴィンテージのような雰囲気さえ漂わせる、とてつもないオーラのある靴だ。
photography jun udagawa
意識的な色気を排したことで、逆にその男らしさが色気を生み出している、稀有な存在の靴。ちなみに、極端に足に合わせすぎないようにし、フィッティングにはメリハリをつけ、特に前足部の空間を大切にしている。靴にも足にも無理な負担のかからない、本質を捉えた靴である。ビスポークのみの展開で、シューツリー込みで¥295,000~。納期は1年~。
これから大ブレイクしそうなのが、西山彰嘉氏が手がけているアンだ。2008年に25歳で渡英し、ジェイソン・エイムズベリー氏のもとでラストメイキングをはじめ靴作り全般を学びながら、ジョン ロブやフォスター&サンでボトムメイキングのアウトワーカーとして働いてきた(うち1年はビザの関係で日本で生活)。2013年に帰国後、大阪で自身のブランド「アン」をスタートさせた。
501XXなどのヴィンテージが好きで、古着屋で働いていたこともあるという。好きな靴はニコラス・トゥーシェックやアンソニー・クレバリー、ヘンリー・マックスウェル。アンの靴を見れば納得だ。飾り気がなく無骨でどっしりしていて、その無骨さが逆に色気を生んでいる。“Simple is strong”は師匠の口癖だったそうだが、それを地で行っていて、靴から作り手の一貫した思想が感じられるのだ。
ラストは鉈を使ってブロックから削り出す。ベースラストがあると、どこかで帳尻合わせをしてしまうが、ブロックから削ればベースラストに惑わされることなく、注文主の足の通りに作ることができるからだという。芯もカカトから両ジョイントの手前までしっかり入っているが、特に前足部はスペース作りを大切にしている。トウも含めて絞りすぎると、どこかに無理が生じ、その代償が必ず出てくると考えるからだ。
長く履き込むと味わいが増す靴である。それと、単体で見るより履いたときのほうがより美しい。10年、20年履いたとしても、まだしっかりした面を保っているのは想像がつく。相当カッコよくなっているに違いない、そう思わせてくれる靴である。
ブロックからの
削りだしにこだわる
西山氏がブロックからの削りだしにこだわるのは、ベースラストがあると、その中で足に近づけようとしてしまうからだという。英国製の鉈で1時間ほど大まかに削って、そこから細かい部分はヤスリで整えてマスターラストを作る。これを作るのに5時間以上かかることも少なくない。削るスピード自体は年々早くなっているが、経験を積む中で新たに見えてくる部分もあり、完成させるのに要する時間はむしろ増えているという。ちなみに最近は下写真のようなスマートなラストも手がけるようになった。それでもラストの男らしさはしっかり堅持していて、これがまた大変に美しいオーラを放っている。これから西山氏の「アン」には大いに注目したいところだ。
西山 彰嘉にしやま あきよし。1983年、愛媛県生まれ。23歳で整形靴メーカーに入り、25歳で渡英。ジェイソン・エイムズベリーで修業を積み、2013年に帰国し、「アン」を始動。渡英の背中を押してくれたのは、同僚だった川口由利子さん(川口昭司氏の奥様)だったそう。フィレンツェ在住の靴職人、谷 明氏もお互い靴職人になる前からの親友。
アン大阪府大阪市北区中崎西2-1-7 2F
info@ann-bespoke.com
不定休
本記事は2018年9月22日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。
THE RAKE JAPAN EDITION issue 24