Thursday, March 18th, 2021

PAST IS PROLOGUE

新車で甦った、ボンドのアストンマーティン

text tom chamberlin

ストーク・パークにて、最終完成車。

 私は決してクルマ・マニアではない。“トルク”が何を意味するのか、いまだによくわからない。エンジンのリッター数やバルブ数などについては、FX取引と同じくらいしか知らない。しかしそれでもいいと思ったのは、このクルマがしゃかりきになって走りを追求するタイプではないからだ。これは、このクルマの持つファンタジーに惚れ込んだ購入希望者の夢を解き放つためのものなのだ。

 回転式ナンバープレート、煙幕発生システム、リアのオイル散布システム、ツインマシンガン、リアの防弾シールド、タイヤスラッシャーなどが装備されている。実際には、ダミーとなるものも多いが、それらの装備品がちゃんとついているという事実は、たまらなく魅力的だ。

 このクルマが作られたこと自体が奇跡なのだ。DB5の生産台数は1000台ちょっとと少なかった。そんなクルマを2020年版DB5ではなく、60年代にあった本物に近づけるために払われた努力は膨大だった。例えば、エキゾースト・サウンドを考えてみよう。昔であれば、エンジニアはいかに騒音を抑えるかに腐心していたはずだ。しかし最近では、オリジナルのような音が入ってくる材料を使う機会はない。彼らはバリトンで響くエンジン音が十分に聞こえるようにするために、エンジニアとしての本能に逆らわなければならなかっただろう。パワーステアリング、ABS、トラクションコントロールなどは一切ない。あるのはロール&ドリフト、そしてノイズだけだ。特に自然なロールを可能にする技術は、現代では実現するのが難しく、非常に高くつく。

 しかし、アストンマーティンの復元への努力は実を結び、オリジナルとほぼ同じ体験を可能とした。実際、現代のDBSが製造に220時間を要するのに対し、DB5ゴールドフィンガー コンティニュエーションは4,500時間という途方もない時間が必要で、そのうちの500時間は金属加工だけに費やされているという。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 38
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