September 2019

ON THE HOLY GRAIL

英国カントリースタイルの決定版

王室御用達ウィリアム&サンは、英国のクラフツマンシップを守るべく各社と力を合わせてきた。私たちは今回、ノーサンプトンシャーの衣服メーカー、クリサリスとのチャレンジを試みた。
text tom chamberlin
photography kim lang

THE RAKE 本国版編集長、トム・シャンベリンが着用しているのは、ラヴァト・ミルが織ったツィード地を名ファクトリー、クリサリスで縫い上げたもの。プロデュースしたのは、ラグジュアリー・カントリーウェアを発売するウィリアム&サンだ。

“バイブルベルト(聖書地帯)”といえば、皆さんは米国南部に連なる州を思い浮かべるかもしれないが、THE RAKE が連想するのは、それとは異なる地域だ。バイブルベルトは世界各地に数多く存在するが、少なくとも英国では、ミドルセックスとラトランドに挟まれた、ロンドンの北西に位置する細長いエリアを指す。

 英国において、この地域は昔から手工業が盛んで、数々の靴、織物、衣服類が製造されている。買い物客は服の“聖地巡礼”のためにサヴィル・ロウなどへ行くが、真の愛好家は、好きなブランドの工場やメーカーへ足を運ぶ。この地域は、そんな彼らの行き先になることが多い。

 同名のコルビー(Corby)・ズボンプレッサーと比べると影が薄い町、コービーの近くにあるのがクリサリスの工場だ。クリサリスはカントリーウェアを専門に扱うファクトリーで、工場内ではコンベヤーベルトに吊るされたハンガーに紳士物と婦人物のコートがずらりとかかっている。ツイード製もあれば柄物もあり、いずれも非常に高品質だ。

 工場を運営する社長兼創業者、クリス・ブラックモア氏はサヴィル・ロウのOBであり、プロ意識に溢れた人物だ。生地の裁断、プレス、ボタン付けにいたるまで、あらゆる手仕事において、高い水準をキープしている。動き続ける機械の音、必要最小限の室内装飾、作業ごとに割り振られたスペースなど、工場の様子はおおよそ予想通りだ。各スペースではそれぞれの職人が自分の仕事にひたむきに取り組んでいる。

 私がここへ来ることになったきっかけは、ロンドンのラグジュアリーなカントリーウェアのショップ、ウィリアム&サンのCEO、ルー・マクラウド氏だ。クリサリスの工場は、ウィリアム&サンの親会社が2014年に買収した。

 マクラウド氏は私のワードローブを哀れんでくださったのかもしれない。もしくは、ウィリアム&サンが自社の、高品質で長持ちする英国製ウェアに確固たる自信があり、THE RAKE でぜひ詳しく紹介したいと思われたのかもしれない。そんなこんなで、我々は列車に飛び乗ってクリサリスへと向かった。

THE RAKE JAPAN EDITION ISSUE 28
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