HENRY POOLE
【ヘンリー・プール】伝統に勝てるものはない
April 2020
ここではヘッドカッターという言葉を用いず、複数のシニアカッターにアシスタントカッターがつくシステムとなっている。そのため、ひとりのシニアカッターが引退してもハウススタイルの継承には問題がない。このシステムがイタリアの家族経営のサルトリアとサヴィル・ロウのハウスとの大きな違いとなっている。
「ウエストコートはポストボーイスタイル(裾がストレートなラインのもの)が人気だ。既製品にあまりないからだろう」
変革を遂げているのはシルエットだけではない。ジャケット自体の構造も変化している。全体の9割を構成するファブリック自体もライトウェイトになってきているうえに、ハーフライニングも全体の3割を占める。
「ファブリックは7オンス(約200g)から15オンス(約425g)まで幅広いウェイトを用意している。それに従ってジャケットの構造も7割が4層、残りの3割は2層構造でより柔らかく軽い仕立てとなっている。フェルトといった構造材も軽いものを使用し、ステッチも少なく、より快適に着用するために変えている。かつて冬用はヘンリー・プールで、夏用はイタリアのテーラーに頼むと顧客から聞いたことがある。だが今はフレキシブルに様々な季節や状況に応えるスーツを作っていて、未だに『サヴィル・ロウのスーツは鎧だ』という既成概念を変える必要がある」
ところで、メンズウェア業界ではSNS、特にインスタグラムの時に甚大過ぎる影響を危ぶむ声もある。それに対してはどう思うのだろう。
14オンスのグレンロイヤルツイードを用いたハッキングスタイルジャケット。オリジナルのナポレオン・イーグルタイと縁がハンドロール仕様のコットンポケットスクエア。
「かつてSNSとサヴィル・ロウは遠い関係にあったが、今は違う。ヘンリー・プールもインスタグラムで発信している。意外だったのはインスタグラムの読者が20代から60代までと幅広いこと。そこで見たスーツを指し、こんな風に作ってほしいと言われることもある。私自身も世界中のテーラーの仕事が見られるようになったのは素晴らしいし、そこからインスパイアもされているんだ」
ここ、ビスポークの聖地サヴィル・ロウにもカジュアル化の波は押し寄せている。アレックスはサヴィル・ロウの将来についてどう思っているのか?
「カジュアル化は避けられない波だろう。だからこそ私たちはアディダスといった企業とコラボレーションを行っている。しかし、時代が変わっても、ここがスーツ誕生の地であることに変わりはない。ジーンズとスニーカーでは誰も気にとめることはないが、素晴らしいスーツを着用していれば相手の態度は違うだろう。手仕事で作られる、ビスポークスーツだけが持つ特別な価値は、消滅することはないと信じているよ」
ビスポークの聖地としての価値は、サヴィル・ロウの正統な仕立ての伝統が継承される限り、輝き続けることだろう。
HENRY POOLE & CO.ヘンリー・プール
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