HENRY POOLE

【ヘンリー・プール】伝統に勝てるものはない

April 2020

サヴィル・ロウの伝統的な店舗の形式、ジョージアン様式のタウンハウスには顧客を迎えるサロン、カッターテーブル、試着室が1階にあり、地下にワークルームを構える。この形式を踏襲するサヴィル・ロウでも少ないテーラーのひとつ。現在も約40名の職人を抱える最大規模のハウスであり、平均年間1,100着を作っている。

 さらに背広の語源となったとされるサヴィル・ロウのスーツは、ヘンリー・プール製ではないかと推測される。1871年に日本初の在外公館、英国の日本大使館に赴任した東伏見宮の顧客記録が同社に残されているからだ。吉田茂、白洲次郎も同社の顧客だった。日本人にとって背広とサヴィル・ロウはヘンリー・プールと分かち難く結びついている。

 世界の政財界に多くの顧客を持ち、なかでもウィンストン・チャーチルが、第二次世界大戦時に戦意高揚のためのキャンペーンで着用したフォックス・ブラザーズ社のチョーク・ストライプ・フランネルの3ピーススーツは歴史に名を残すスーツとなった。

 果たして、現在のヘンリー・プールのスーツはどのような変革を遂げているのか。シニアカッターのアレックス・クック氏にその違いを語ってもらった。

「型紙のブロック自体は大きく変化することはないが、ここ数年でスタイルはモダナイズされた。胸元のドレープと全体のシルエットはスリムになった。着丈も約1.5インチ(約3.8cm)ほど短くなり、ショルダーも顕著なロープドショルダーではない。全体にコンテンポラリーなテイストとなっている」

LBD製オリジナルハウスチェックの3ボタン、シングルスーツ(左)。ポーター&ハーディング製ドネガルツイードのジャケット(右)。タイとチーフもヘンリー・プールオリジナル。

 シルエットの違いがわかりやすいようにと、従来のものと新しいシルエットのものを並べてみた(1ページ目写真)。

 左の仮縫い中のネイビースーツは豊かな胸元とシェイプしたウエスト、張り出したスカート部分と、ヘンリー・プールの典型的なシルエットだ。それに比べ右のディナージャケットは着丈も短く、よりフィットしたスリムなシルエットになっているのがわかる。

「ウエストコートは常に難しい。ハイウエストのトラウザーズと合わせることで全体がつながった美しいシルエットを作れるが、今もハイウエストのトラウザーズを好まない顧客が多い。そうするとウエストコートが長くなり、全体のバランスが崩れてしまう。なんとか説得しようとするけれども、大抵の場合、負けるのはこちらのほうだ(笑)」

 興味深いことに、ウエストコートを頼む顧客がかつては少なかった。今は3ピースの人気が復活し、従来ひとりだったウエストコートメーカーをふたりに増員したが、それでも納期が間に合わないほど今は人気があるそうだ。

THE RAKE JAPAN EDITION ISSUE 32
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Contents

<本連載の過去記事は以下より>

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