楽園の終わり

愛艇の舵を取るジャンニ・アニェッリ（1975年）。

　30年代はテニスがブームになり、若手の精力的な人々が集まった。1944年、リヴィエラに到着したアリ・カーンは真っ先に旧知のテニスプロであるアイルランド人のトミー・バークのもとを訪ね、一緒に家探しに出かけたという。

　宗教指導者アガ・カーンの息子でありながら、20世紀を代表するプレイボーイとして知られるアリは、バークとともに、カンヌから数分のところにあるプレイボーイマンションを見つけた。ジャズエイジの栄華を思わせる邸宅、シャトー・ド・ロリゾンは女優のマクシーン・エリオットのために建てられたものだが、これを彼女の相続人から1947年に買い受けたのである。

　このシャトーには、いわゆる“リヴィエラ・ベージュ”のリネンのカバーを付けたふかふかのソファーが置かれ、ダイニングルームには大理石の一枚岩から切り出された長テーブルがあり、壁にはブーダンやデュフィ、ルノワールやドガの絵が飾られていた。屋外には、地中海に飛び込める滑り台付きのプールがあり、アリがリタ・ヘイワースと結婚した際は、このプールが200リットルのオーデコロンと花々で満たされた。