The Rakish ART ROOM Vol.15
貴殿も世界の名画オーナーに!
アンリ・マティス
July 2021
cooperation mizoe art gallery
バルコニーでインコを眺める若い女¥3,500,000(税込価格)
1929年の作であることから、このエッチングも前頁の《鉢のある室内》同様、シャルル=フェリックス広場1番地のアパルトマンのアトリエで描かれたと考えられる。コートダジュールの海辺を見下ろす避暑地のバルコニーで女性がインコを眺めるこの図は極めてブルジョワ的な印象だが、見る者の心を癒やす「肘掛け椅子のような」作品を描きたいと願ったマティスらしいものだといえるだろう。のびやかで軽やかな線の美しさにも注目したい。《バルコニーでインコを眺める若い女》1929年、エッチング、シナ・アップリケ 24×16.8cm お問い合わせは、ザ・レイク・ジャパン info@therakejapan.com まで
1938年以降、マティスのアトリエは19世紀末にヴィクトリア女王滞在のために建てられた丘の上の高級アパルトマン、レジナ・ホテルへと移るが(第二次世界大戦中はヴァンスのル・レーヴ荘に滞在)、初期のホテル住まいから専用のアトリエを構えたメリットのひとつは、誰に咎められることなく自らが愛するものを室内にありったけ運び入れて、制作の着想源にできるということだった。
マティスの場合、その偏愛が向かった先が、テキスタイルや調度、そして無数の鳥たちである。
前頁でも述べたように、マティスの装飾的な画面には、ヨーロッパのそれはもちろん、アルジェリアなどの旅行先で購入したさまざまなテキスタイルが一役を担った。天井から吊したり、ドレープを作ったり変型可能なテキスタイルは、壁紙よりもずっと豊かで複雑な空間を作ることができたのだ。
彼の布への偏愛は、マティス自身が生まれ故郷のル・カトー=カンブレジほか織物産業の盛んなフランス北部の町で育ったことが理由のひとつとされている。彼は、若い頃からテキスタイルを収集し、パリとニースのアトリエを行き来していた時も、旅行の時でさえそれらを持ち運び、手元に置いてインスピレーションの源泉とした。マティスはニースのギャラリー・ラファイエットで布を購入し、自ら縫ってモデルの衣装やアクセサリーを作ることもあったという。
また1940年代、《バルコニーでインコを眺める若い女》が描かれた後の話だが、マティスはアトリエで300羽以上の鳥を飼っていたことが知られている。熱帯性の観葉植物の中、鳥たちが飛び交う部屋は、さながら南洋の島に迷い込んだようであったに違いない。このエッチングで女性が見つめるインコは2羽のみだが、画面の外では既に多くの別の鳥たちが、賑やかにさえずっていたのかもしれない。
本記事は2021年7月26日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 41