THE KING’S REACH

チャールズ皇太子の素顔(Issue07/2015年11月24日発売号掲載記事)

May 2023

text hugo vickers (royal biographer)

マスターテーラー慈善協会のディナーパーティーにツイードのジャケットで出席した皇太子(1971年)。

着こなしは賛否両論 シャツは今もターンブル&アッサーであつらえている。同社は1885年創業のシャツメーカーで、1982年に皇太子からロイヤルワラントを授与されており、担当するカッターは、さまざまな場所にいる皇太子を訪ねては採寸する。

 彼の靴(と乗馬ブーツ)を仕立てるのはセント・ジェームズ通りのジョン・ロブだが、ここの靴も“持ち”がいい。

 1971年2月、チャールズ皇太子は年に1度開催されるマスターテーラーズ慈善協会のディナーパーティに出席したが、彼はツイードのシューティング・ジャケットを着用し、両手を後ろに組んだ姿で会場のヨーロッパホテルに現れた。彼は集まったゲストに、自分の着こなしには賛否両論があると語った。

「失業者のような格好だと言われたこともあれば、世界有数のベストドレッサーだと言われたこともあります。どうやって判断しているのでしょう。バーで相談しているのでしょうか」

 さらに皇太子は、自分も父も両手を後ろに組んで立つので、それがある種の遺伝体質のように思われていると語った。「それは、私も父も同じテーラー(当時はエドワード・ワトソン)に頼んでいるからです。彼の仕立てる袖はとても細身なので、両手を前に持ってくることができません」とジョークを飛ばした。

 ノートン&サンズのパトリック・グラントは、かつてこう語った。

「チャールズ皇太子は、ヒップとスクエアの境界線上にいながら、手が届きそうで届かない存在だ。あのヘアカットやダブルのスーツはヒップでもスクエアでも通用するが、いつも何か内に秘めているような印象を受ける。型破りな洒落者だったエドワード8世の心意気に、どこか近いものを感じる」

 そこで私はウィンザー公の個人秘書官ジョン・アターの言葉を思い出す。

「あなたや私がウィンザー公と同じ服を着たら、こっけいに見えるでしょうが、公が着ると(なぜか)違うのです」

 ウィンザー公は年配になってからも、大胆なチェック柄や明るく斬新な色使いの服をよく着ていた。

 チャールズ皇太子のファッションを真似するファンはいないから、殿下はトレンドセッターではない。父のエディンバラ公、そしてロイヤルファミリーの男性たちと同じように、スマートかつトラディショナルで、自らの立場にふさわしい服、なんといっても英国のテーラーが手がけた最高の服を身に着けている。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 07
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