May 2023

THE KING’S REACH

チャールズ皇太子の素顔(Issue07/2015年11月24日発売号掲載記事)

彼は情け深く、アクティブで、知的で、探究心が旺盛だ。趣味のいい教養人で、みんなと同じように、世知に長けた男になりたいと思っている。男性としては英国王室史上最高齢の王位継承者でもある、プリンス・オブ・ウェールズは今まで公私のバランスを取ろうと散々苦心してきたが、最大の試練が彼を待ち受けている。
text hugo vickers (royal biographer)

トレードマークのダブルスーツを着こなすチャールズ皇太子。スーツはサヴィル・ロウのアンダーソン&シェパードでªあつらえたもの。

 自己イメージと他人から見た自分に、大きな隔たりがあることは珍しくない。その最たる例がプリンス・オブ・ウェールズだ。彼は自分が現代で最も誤解された男だと感じているが、おそらくその通りなのだろう。彼を全面的に賛美する者もいれば、眉をひそめる者もいる。この思いやりのある真面目な男性が、皇太子として生まれたのは、ある意味、残念なことだった。

 彼が施してきた多くの善行は、二度の結婚のせいで、世間ではあまり認知されていない。一度目の結婚も二度目の結婚も、物議を醸してきたが、長年にわたる騒ぎを経て、身辺がようやく落ち着いたことは間違いない。しかし彼が私人だったら、結婚相手はもちろん、結婚しているかどうかに関心を持つ人などいなかっただろう。

アンダーソン&シェパード ロイヤルファミリーの一員だからこそ、彼の装いも興味の対象になる。正直なところ、ダイアナ元妃のファッションほどは話題にならないが、それでも関心を集めている。私はこの記事が掲載されている号の表紙写真を見ると、ロイヤルスチュアート・タータンをまとったジョージ4世の肖像画(1822年のスコットランド初訪問を記念して、デイヴィッド・ウィルキーが描いたもの)を思い出す。トロント・スコットランド連隊(所有者はエリザベス皇太后)の名誉連隊長の制服を着たプリンス・オブ・ウェールズは、ジョージ4世にひけをとらない堂々たる風貌だ。

 彼のファッションセンスを一言で表すなら、「コンヴェンショナル(因襲的)」といえるだろう。プリンス・オブ・ウェールズは息子のウィリアム王子やハリー王子と違って、ノーネクタイで現れることはめったにない。彼はサヴィル・ロウのアンダーソン&シェパードであつらえたスーツをスマートに着こなしているが、ここは最初の結婚直後に、ダイアナ元妃からすすめられたテーラーだ。

 皇太子は30年以上にわたってアンダーソン&シェパードを贔屓にし、そのダブルジャケットを愛用している。同テーラーのトップカッター、ヒッチコック氏はリタイアした今でも、フィッティングのためにクラレンスハウスにいるチャールズ皇太子のもとを訪れている。

 アンダーソン&シェパードはチャールズ皇太子のモーニングコートも仕立てている。彼は他のロイヤルファミリー、特に故アンガス・オギルヴィ卿のように、黒のベストに白のラインを入れて、タイを引き立てている(普通のテーラーなら「お客様、近頃はあまりご用命いただかないスタイルですが」と言うだろう)。

 ロイヤルファミリーは物持ちがいい。ウィンザー公は1937年の結婚式で来たスーツを、1968年のケント公爵夫人マリナの葬儀でも着用した(しかも、完璧に着こなしていた)。チャールズ皇太子が2005年の結婚式で着用したモーニングコートは7年前にあつらえたものだし、ベージュのコートは1987年につくったものだ。ややくだけた装いが許されるロイヤルアスコットでは、グレイのモーニングコートを着るが、合わせるのはブラックのシルクハット。彼のスーツのなかには、ツギをあてたものもある。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 07
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