September 2015

Sex, Drugs and Moroccan Roll

背徳の街に集ったセレブリティたち

by nick foulkes

ポール・ボウルズ。

 タリサは、誰もが逃げ出したくなるほどのつらい幼少期を送った。ドイツ人画家の娘として生まれ、第二次世界大戦中、日本統治時代のバリ島で育った。捕虜収容所で暮らした記憶は、いつまでも心から離れることはなかった。

 このつらい体験の傷が癒えぬまま、母親は戦後すぐに亡くなり、父親はオーガスタス・ジョンの娘であるポペット(1930年代にタンジールでよく姿を見せていた)と再婚する。このおかげで、タリサはロンドンの芸術界や社交界に仲間入りし、そこでの生活を満喫していた。

 1965年には、タトラー誌のガール・オブ・ザ・イヤーに選ばれる。セクシーな魅力にあふれ、その色気にはルドルフ・ヌレエフも夢中になった。

 タリサは「男をくぎづけにする魅力をすべて兼ね備えている」といわれたが、ゲッティもそんな彼女にくぎづけになった1人だ。2人は1966年12月にローマで結婚。新婦は、ミンクでトリミングされた純白のミニドレスを身にまとった。

放浪者カップルのある1日「1日はピクニックで幕を開ける。アトラス山脈の滝の近くにある平らな岩盤の上で、巨大なオニオンタルトを楽しみ、エンターテイナーやダンサー、曲芸師、ストーリーテラー、占い師、マジシャンたちを大勢連れて帰ってくる。締めくくりは壮大なディナーだ。友人を家いっぱいに招き、キャンドルの明かりの中、バラやミントに囲まれながら食事を取るのだ。バックには『サロメ』が流れ、ヘビ使いはヘビを操り、ティーボーイは、ミントティーと火のついたキャンドルが置かれたトレーを足の上に載せバランスを取っている」

 ジェットセットな放浪者カップルは、ヒッピーの聖地を訪ねる旅にも出かけた。カトマンズ、ニューデリー、バリ、バンコクを巡り、マラケシュの快楽の家を埋め尽くすガラクタをお土産に帰ってきた。本人たちは、従来とは違う新しい生き方を模索しているつもりだったかもしれないが、ヴォーグ誌は、そんな2人の生き方を「行き先のない旅」と評した。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 05
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