Monday, October 7th, 2019

SEWING THE SEEDS OF TIME
円熟の境地

積極的に政治参加する理由

 彼はアムネスティ・インターナショナルの熱心なサポーターでもある。同団体のサイトではスチュワートが出演する短編ドラマが紹介されており、欧州人権条約に関する取り組みを説明している。このドラマが製作されたのは、今やイギリス首相となったテリーザ・メイが昨年、欧州人権条約からの離脱を主張した後のことだ。2014年、スチュワートはスミソニアン・マガジンに「最近は、若くて世間知らずだった頃に抱いていた希望と、現実への深い絶望との狭間にいる」と語った。今はどう考えているのだろうか。
「今の世界は何もかもが変わったように感じる。先日、僕は妻と心から尊敬しているふたりの人物―優れた労働党議員であり友人のニール・キノックと米国の元国務長官マデレーン・オルブライト―と話す機会があった。これからどうするのか尋ねると、どちらからも『闘って、闘い続けて、あきらめない』という言葉が返ってきたんだ。やる気が湧いたよ。僕らは不安で心配な時代に生きているけど、ドナルド・トランプやEU離脱だけが世界の未来に結びつくわけじゃない。これからも最後まで何かしら影響を与えられるように努めていくつもりだ」
「哀愁を秘めた楽天家」というスチュワートへの形容は彼の印象をうまく表しているかもしれない。だが、彼自身は次の理由で気に入っていない。
「活動家のエンターテイナーは往々にして酷評されている。マスコミは社会問題に興味を持ち、きちんと意見を表明する有名人をからかい、セルフプロモーションだと決めつけるのが好きだ。多くはセルフプロモーションなんて必要ないほどの人物だから、不当な言いがかりだよね。彼らは演じること以外の方法で世界のさまざまな側面に影響を与えられるチャンスを見つけているだけ。『ショービジネスの世界にいる自分たちは、より良い世界を実現するために何ができるだろうか? 人々を楽しませるだけでいいんだろうか?』と時折思うものなんだ」
経験で円熟味を増す演技

 彼の確かな演技を裏打ちしているのは、潜在意識に残る幼少時代の記憶よりも徹底した研究だろう。役柄に備えるために有用だと思えば、専門家にも相談する。
「役者にはふたつの役目がある。まずは観客を楽しませ、夢中にさせること。もうひとつは自然で信憑性のある演技で真実だと錯覚させることだ。ジェームズ・ブライディの『解剖学者』を演じたときは、グラスゴーにある病院の病理検査室を見学したんだ。教授に招かれて検死にも立ち会った。執刀を学生と一緒に離れたところから見学するんだと思っていたんだけど、行ってみたら隠れるところのない小さな部屋で90分にわたる死体の解剖を最後まで見ることになった。貴重な経験だったし、こうした経験は演技に真実味を持たせる上で役に立ったよ」
 70代半ばで円熟期を迎えているスチュワートがプロとしての武器だと考えているのが、まさにこうした経験そのものだ。
「特に(『新スタートレック』の)ピカード艦長のような役は、すごくやりがいがある。シリーズを重ねるにつれて過去の経験や自分自身の情熱、社会的信念を演技に生かせるようになるからね。ひとつの役を通じて、今を生きる人間として自分が心から信じていることのために闘えば、深い満足感を得られるだろう」
 かつてスチュワートが「若くて世間知らずだった頃に抱いていた希望」と呼んだものは、年月を経て健全なプラス思考へと進化した。
「これほど長く生きていると、2歩進んでは1歩下がるという社会の現状も、現実の複雑さもよく理解しているつもり。けれど、それでも僕らは前へ前へと進んでいくだろうと信じている」
 パトリック・スチュワートは経験によって培われた見識を糧にして、これからも活躍してくれるだろう。俳優生活60年を迎えて、まだまだ引退する気配はない。

LOGAN/ローガン
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ヒュー・ジャックマン、
パトリック・スチュワートほか
配給:20世紀フォックス
6月1日(木)より全国ロードショー
X-MENで最高の人気を誇るウルヴァリンシリーズ最新作は、長年の戦いで疲弊したローガンが謎の少女を命がけで守る、ロード・ムービー仕立ての心揺さぶる物語。ヒュー・ジャックマン、パトリック・スチュワートは今作がシリーズ最後の出演となる。

PHOTOGRAPHER’S ASSISTANT: SAM FORD/TOM FRIMLEY/JAMES FREW
FASHION ASSISTANTS: VERONICA PEREZ
GROOMING: REBECCA LAFFORD
SHOT AT HOTEL CAFÉ ROYAL

THE RAKE JAPAN EDITION issue 16
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