Monday, October 7th, 2019

SEWING THE SEEDS OF TIME
円熟の境地

信頼できるブロマンスな関係

 舞台『No Man’s Land』がすばらしい成果を挙げたのは、ピンターの創意に富んだセリフやロンドンらしい華やかな舞台はもとより、主演ふたりの強い絆によるところが大きい。イアン・マッケランとパトリック・スチュワートは2000年の映画『X-Men』での共演を通じて友情を深めた。彼らの経歴や年齢、キャリアの共通点を考えれば、もっと早く仲良くならなかったのが不思議だ。
「この舞台の最初の25分間は、ふたりだけのやり取りが続く。だから大事なのはお互いの信頼。深い敬意があれば、なんでもできる雰囲気が生まれるんだ。自由になれるし、実験できるし、その作品の新たな側面も引き出せる。あらかじめ打ち合わせする必要なんてないからね。ともに過ごし、ともに演じてきたから、観客が絶対に気づかないようなものを舞台の上で共有することができるんだ」
 2013年にスチュワートが3番目の妻(38歳年下のジャズシンガー、サニー・オゼル)と結婚する数日前、トーク番組で今後の予定を聞かれたイアン・マッケランは「パトリック・スチュワートと結婚する予定だよ」といたずらっぽく返した後、実際は結婚式の司式をすると明かした。スチュワートはこう語っている。
「これは妻の希望だったんだ。サニーは僕と9年近く前に知り合ってまもなく、舞台『ゴドーを待ちながら』で共演しているときにイアンと知り合ったんだ。イアンは無神論者だったのにネットで調べて宇宙生活教会の牧師になった。僕たちの式を執り行うための資格を取ってくれたんだよ。これまでの人生でも最高に幸せな週末だった。ネバダ州タホ湖のほとりで、友人や家族に囲まれて結婚したのさ」
 パトリック・スチュワートはイアンに対して愛情やプロとしての敬意を抱いているが、イアンの想いもそれ以上に熱い。
「パトリックと一緒に仕事をするのは楽しい。互いに心許せる相手なんだ。厳しいときもあるから彼を怖がっている人もいるけれど、僕にとっては相棒だからね。兄弟に近い存在。お互いを心から尊敬しているから、ケンカしたことはないよ」

影響を受けたイデオロギー

 ふたりの相性がいいのは政治的ポリシーが同じであることも大きい。ふたりとも公平で寛容な社会をいつも熱心に提唱している。ヨークシャー州マーフィールドで織物工の母親とイギリス陸軍軍曹の父親の間に生まれたスチュワートはかつてこう語った。
「社会は能力主義であるべきだと思う。賢い人、頭の切れる人、際立った才能を持つ人が活躍するチャンスを手にしたほうがいいけれど、機会は平等に与えられるべきだ。今の社会はそうじゃない」
 スチュワートが演劇に興味を持ったのは幼少時代だったが、政治についても早熟だったのだろうか。
「そうだよ。僕が初めて市民的不服従の行動を起こしたのは4~5歳の頃。生まれ故郷のヨークシャー州でね。父は生涯を通じて熱心な労働組合員で積極的に活動していたから、僕のためにプラカードを作ってくれた。このプラカードを持って投票所を歩き回っていたんだ」
 親譲りのポリシーは成長期の経験によっていっそう強固になった。
「両親はどちらも労働者階級。母は織物工として生涯働いていたけど、給料はあまりにも安く、労働環境は劣悪だった。だから幼い頃から、社会では誰もができるだけ豊かで価値ある人生を送れるよう、同じ機会を手にするべきだと思っていたんだ」
 その一方で、子供の頃は常にドメスティックバイオレンスに直面していた。
「父が母に繰り返し暴力をふるっていて、その暴力がもたらす恐怖や苦悩を目の当たりにしていた。できると思えたら父を殺していただろう。だからドメスティックバイオレンスの被害者を支援するチャリティ団体から後援を頼まれたときは、喜んで引き受けたんだ。このような活動に参加できて非常に光栄だ。これは母のために取り組む仕事だから」
 父親の行動はスチュワートに深い影響を及ぼした。しかし最近になって、彼は気づいた。1944年のシェルブールの戦いから帰還した父親は、その体験から重い精神的後遺症を患っていたのである。そこでスチュワートはコンバット・ストレスをケアする団体をサポートすることにした。
「これは戦場から戻って来た退役軍人や帰還兵を支援するすばらしい組織。彼らの多くは深刻なPTSDに苦しんでいる。僕は父親のことを否定的にしか考えられなかったけど、父の死後かなり経ってからさまざまな行動の背景にあるものがわかったんだ。父に対する理解が深まったし、父が置かれた状況に同情するようになった。もっと早くに気づいてあげれば良かったんだけど」

ジュリア・ロバーツと共演した『陰謀のセオリー』(1997年)。

大人気SFシリーズ『新スタートレック』でのジャン=リュック・ピカード艦長。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 16
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