Monday, October 7th, 2019

SEWING THE SEEDS OF TIME
円熟の境地

きっかけはシェイクスピア

 自分の人生を決定づけた人物をひとり挙げてほしいと尋ねると、パトリック・スチュワートは迷わずこう答えた。
「中学生のときに出会った、セシル・ドーマン先生だ。初めてシェイクスピアの作品を手に取ったのは、先生から『ヴェニスの商人』を渡されたとき。それがなかったら、この世界に足を踏み入れることはなかったかもしれない。初めての舞台はパントマイムやおとぎ話じゃなく、大人たち(ほとんどは学校の先生)が演じる本物の演劇だった。そこで観客の前で芝居を演じる楽しさに目覚めたんだ。あの感動は今も覚えてる」
 地元の劇団に加わり、15歳で学校を辞めると、地方紙のジュニア・レポーターとして働いた。勤務時間中も舞台のリハーサルに参加していたという。それからまもなく、16年にわたるロイヤル・シェイクスピア・カンパニーでのキャリアをスタートさせる。1966年の入団以来、『テンペスト』のプロスペロや、ジョン王、ヘンリー4世をはじめ、数々のシェイクスピア劇で主役を張ってきた。舞台ではその他に『モーガン山を下りる』や『クリスマス・キャロル』、テレビドラマでは『新スタートレック』のピカード艦長などを演じた。映画でも、ニューヨークで生活するゲイの役(『ジェフリー! 』1995年)から、CIAの精神科医(『陰謀のセオリー』1997年)、ライブハウスのオーナーで殺人癖のあるネオナチ(『グリーンルーム』2015年)まで、幅広い役柄をこなしている。
 さらに、よく響くバリトンボイスを生かして声優としても活躍、セス・マクファーレン監督の『テッド』『テッド2』ではナレーションを担当した。それをきっかけに、同監督が2016年に製作総指揮を手がけたコメディドラマ『Blunt Talk』で、破廉恥なニュースキャスターを演じた。
「コミカルな役のオファーはいつでも大歓迎なのに、めったに来ないんだ。でも本当はコメディが大好きなんだよ」
 だから、遊び心あふれるツイートにハマっているのだろうか? スチュワートの笑いに対する姿勢はもっと真摯だ。
「ずっと前にローレンス・オリヴィエがインタビューで言っていたんだ。演じているときに観客が息をのみ、すすり泣き、叫ぶ声を聞くのもすばらしいけど、自分の演技を見て笑っている観客の声を聞くのはもっと最高だ、とね。僕も同感だ。だからセス・マクファーレンからコメディをやってみないかと声をかけられたとき、すぐにやると答えたよ。これまでの人生でも最高の経験のひとつだった」
 多忙な2016年を締めくくるプロジェクトは、ウェストエンドの舞台『No Man’s Land』(ハロルド・ピンター作)だった。この舞台で彼が演じたのは上流階級出身でアルコール依存症のライター、ハースト。その相方、無気力で理知的な詩人スプーナーを演じたのはイアン・マッケランだ。
「昨年は映画、コメディドラマ、舞台でバラエティ豊かな役に恵まれて最高の1年だったよ。多彩な役は刺激的で新鮮だし、76歳になっても現役で仕事を楽しめるなんて本当にありがたい」

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THE RAKE JAPAN EDITION issue 16
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