Monday, October 23rd, 2017

PRINCE AMONG MEN
20世紀を代表するプリンス

貴族に生まれ、5カ国語を操り、ハリウッドの帝王とも本物の王族とも
ファーストネームで呼び合う間柄だったら……そんな想像をしてほしい。
マルベーリャ・クラブの創業者、プリンス・アルフォンソは、まさにそういう男だった。
text nick foulkes

14歳の少女を妻に

 アルフォンソは1954年夏の出張中に、飛行機墜落事故に巻き込まれた。だが幸運にも、彼は生き残った。のちに『LIFE』誌に語ったところによれば、燃えさかる炎の中で、数週間前に出会ったばかりの14歳の少女の幻を見たという。それがヴェネツィアにいるプリンセス・イーラ・フォン・フュルシュテンベルクだった。すぐさま彼は彼女に電報を打った。
「結婚してくれる?」 これに対するイーラの答えは「イエス」だった。
 過ぎ去りし時代に後世のモラルをあてはめるのは難しいが、それでも年の差は相当なものだった。しかしアルフォンソは、映画スターのようなルックスと、ヨーロッパ王家の中でも、とりわけ古い歴史を持つ血筋に恵まれていた。
 一方、ティーンエイジャーのイーラもさまざまな点で彼にふさわしかった。プリンセスで女相続人でもあったし、アルフォンソと同じく自動車業界にも縁があった。彼女の叔父はプレイボーイとして鳴らしたTHE RAKEことフィアット総帥のジャンニ・アニェッリだったのだ。
 ロンドンの『デーリー・テレグラフ』紙が“戦後最大ともいえる中央ヨーロッパ貴族の集まり”と評したプリンス・アルフォンソとイーラの結婚式は、花嫁の一族が宮殿を持つヴェネツィアで1955年に挙げられ、ヨーロッパ社交界の語り草になった。花嫁の年齢はスキャンダラスだったが、イタリアの女性は14歳になると親の同意があれば結婚できたのだ。
「彼女はナンバーワンのピンナップ・プリンセスだ。ヴェネツィア国際映画祭の映画スターも、このたぐいまれな少女にはかなわない」と『デーリー・エクスプレス』紙は書きたてた。通りや橋には見物客がひしめき、世界中でトップニュースになり、『LIFE』誌ではゴンドラに乗る幼な妻の写真が表紙を飾った。
 だが、この結婚は5年も持たなかった。アニェッリも顔負けの女たらしとして名を馳せたラテンアメリカの“ベイビー”ピニャターリに魅せられたイーラは、子供たちを連れてメキシコシティにある高級ホテル、クリストバル・コロンの6階に引っ越してしまったのだ。そこで彼女は数十人のガンマンに守られていた。しかしアルフォンソは私兵を雇い、同ホテルを急襲し、子供を奪還した。セレブたちの親権争いは、まるで戦争のようだ。日が沈まない場所
 離婚して独身に戻ったプリンスは、マルベーリャ・クラブの経営に打ち込んだ。「マルベーリャがサントロペと並び称されるようになったのは、独身生活を再び満喫していた頃のことだ」と彼は語った。
 マルベーリャ・クラブの評判はうなぎ上りで、スリム・アーロンズ(1960~70年代の、アメリカ上流階級を専門に撮影した写真家)がフルカラーで撮影するような一大リゾートになっていた。
 キューバミサイル危機の最中に、世界の終わりが迫っていることなど気にも留めずに華やかなパーティーが開かれていたのも、スペインで初めてトップレスで日光浴をする女性が現れたのも、マルベーリャ・クラブだった。
 アルフォンソは海外進出に乗り出した。1979年にはマルベーリャ・クラブ・ マニラの起工式が行われ、マルコス大統領とイメルダ夫人が自家用ヨットで登場して、綺羅星のような貴族階級のゲストたちを歓迎した。マイアミやバハ・カリフォルニア、ジャマイカ、バハマ、アカプルコ、アローヘッドやコロラドに展開する計画もあった。
「マルベーリャ・クラブには、陽が沈まないんだ」とプリンス・アルフォンソはジョークを飛ばしたという。
 しかし、マルベーリャのユニークな環境でなければ、マルベーリャ・クラブ本来の持ち味は発揮できない。プロジェクトはことごとく失敗し、1980年代までには自らが建てたホテルの経営権を失った。
 その後、彼はホテル業を離れ、ワイン醸造家の道を選んだ。すっかり身を落ち着けて3人目の妻との生活に幸せを見いだした。その頃、マルベーリャ・クラブで見かけた彼は、スタッフから実に慕われていた。マルベーリャがあるのはこの白髪の貴族のおかげだということを、スタッフもよくわかっていたのだろう。
 今でもマルベーリャ・クラブは地中海沿岸で一番とは言わないまでも、スペインでは一番有名なホテルだし、そのファサードには今もホーエンローエ家の紋章が掲げられている。そして、創業者の名を忘れないように、同クラブの住所は今でも“プリンス・アルフォンソ・フォン・ホーエンローエ大通り”にあるのだ。

アルフォンソとグニラ・フォン・ビスマルク

ヴェネツィア国際映画祭の期間中、ビーチに寝そべるイーラとアルフォンソ(1957年)

THE RAKE JAPAN EDITION issue 18
1 2 3

Contents