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俳優マイケル・ヌーリー、アンダーソン&シェパードを試す

December 2019

text michael nouri
photography luke carby & kim lang

マイケル・ヌーリー氏のために起こされた型紙。

 私はしまったと思った。たびたびロンドンに戻るとなれば、どうやってフランスやイタリアを見物すればいいのかと思いつつも、私は「ええ、もちろんです」と答えた。隠しラベルが付いた自分のスーツを手に入れるまで、何物にも邪魔させるものか!ああ、かくして私はビスポーク・テーラーリングの世界の人質となったのだ。

 当時の価格は今と比べれば安かったが、夏の終わりまで持つはずの軍資金がそっくり持っていかれる額だった。路上ライブに本腰を入れるしかない。手つけ金を払った私は店から出ると、オールド・ブロンプトン・ロードにあるトルバドゥール、ハイドパーク、リージェンツパーク、グリーンパーク、シャンゼリゼ、そしてローマ、ナポリ、カプリ島の広場を巡ってディランの福音を伝えた。懐は寂しくとも甘美な日々だ!

 1964年7月、ロンドン。私は秘密のラベルが付いた人生初のビスポークスーツを受け取った……。

 あれから55年経った今、おやじはこの世にいない。これまでに見た男性のワードローブの中でも指折りとラルフ ローレンの担当者に評された、おやじの驚くべきワードローブは、どこかの幸運な人物がオークションで競り落としたらしい。

 私自身のクローゼットは、今やおやじへのちょっとしたオマージュになっている。素晴らしい不思議の国のような彼のクローゼットと比べれば、私のは非常にささやかだが、スーツのポケットの中の隠しラベルには、エドワード・セクストンやヘンリープール、そしてイタリアからはガエターノ・アロイジオやアントニオ・リヴェラーノといった名が連なっている。

調整のためにチョークで印を付ける。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 29
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