MICHAEL FASSBENDER
LOVING THE ALIEN

俳優:マイケル・ファスペンダー 変人役を愛でる理由

August 2019

text shiho atsumi

全世界にその存在を知らしめた衝撃作『SHAME -シェイム-』。2011年はこの作品を含め5本の映画に出演。
Photo by Getty Images

 完璧であるはずのアンドロイドが“人間らしさ”を獲得することによって、より冷酷になってゆく。その展開には戦慄を覚えるが、不完全さをもってして“人間らしさ”とすることは、ファスベンダーの役選びにも合致している。

「欠陥のあるキャラクターを好きなのは、僕らみんながそうだからだ。人と人がスクリプトの中で決裂すれば、“そうだ、ここで涙を流すに違いない”って思うだろ? でももしかしたら、本当は両方とも笑っているかもしれない。人間は複雑だ。僕らの行動はそれぞれに奇妙。それをリサーチできる機会が好きなんだ」

働く意義を自身に問う休業宣言 そのビジュアルとストイックな役作りから、ついたあだ名は“第2のダニエル・デイ・ルイス”。3度のオスカーを獲得しながらも隠遁生活を送るかの名優とは、そのマイペースなあり方も似ているかもしれない。『スティーブ・ジョブズ』(2015年)で最新技術の権化を演じた彼が、テクノロジーが大の苦手というのは、冗談のような本当の話だ。携帯電話を持つことさえも長らく拒絶し、ようやく持ったiPhoneもほとんど電源を切ったままで、何度も紛失しているらしい。セレブの友人は「2~3人」。ロンドンの町では、ファンに時折呼び止められながらも普通に歩き回り、時にはバスにも乗っているという。

「19歳の頃から20年以上ロンドンに住んでいる。あらゆる文化や宗教的背景がまじりあった魅力に、いつも触発されてきた。ただ今はちょっと風景を変えたい気もしてる。もう少しゆったりした刺激の少ない場所に―といってもヨーロッパのどこかだろうけど」

 思わせぶりな言葉に符合するふたつのニュースが飛び込んできたのは、つい最近のことだ。ひとつは、日本でも公開された『光をくれた人』で共演し、交際が続いていたアリシア・ヴィキャンデルと同棲を始めたこと。そしてもうひとつは、俳優としての休業宣言である。

「この5年は次から次へと役を渡り歩き、仕事中毒ギリギリだったと思う。自分自身に問いかけたいんだ。なぜそこまで働くのか? 仕事に食らいついていたのか? いくつかの仕事を後世に残したいのか? この地位を得たかったのか? わからないけど、確かなのは、しばらく演じることから離れようと思っていること。辞めることも視野に入れている。役者としてやっていけるのは、ベストを尽くせると確信できる時までだと思うからね」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 17
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