Thursday, August 22nd, 2019

THE GRAPE AND THE GOOD
300年のラグジュアリー

フランスが誇る高級酒コニャック、その頂点を極めるのが、レミーマルタンである。
カリスマ的CEO、エリック・ヴァラに聞いた、ブランドの次の世紀とは?
text tom chamberlin

 諸兄らもよくご存じのように、イギリスとフランスの「和親協商」とは名ばかりで、昔からまるで兄弟ゲンカのような、低レベルな中傷合戦を演じてきている。
 しかしながら、イギリス人が帽子を取り、フランス人に敬意を示すべき領域もある。それは、ブドウに関する技術だ。いかにして、あのくすんだブドウの実を収穫し、どうやってあの果てしなく複雑で味わい深い飲み物を造り出すのか。イギリス人である私には、想像も理解もできない。
 もちろん、これはワインに限らず、アルマニャックからシャンパーニュにまで当てはまることだが、最も威厳があるのはコニャックだろう。なかでも、レミーマルタン・ブランドが誇るコニャックはその頂点に君臨する。
 レミーマルタンは、自ら認めている通り、最近までどこか謎に包まれたブランドだった。しかし、ロンドンのウォーダー街に期間限定の会員制サロン“ラ・メゾン・レミーマルタン”をオープンさせるなど、止まっていた何かが動き始めたように思える。
 カリスマ的なCEO、エリック・ヴァラによれば、これは革命などではなく、製品への絶大な自信に基づいて、自然に行なわれたことだという。エリックにインタビューし、彼のアプローチと、レミーマルタンの今後の展望について話を聞いた。

ブランド・ビジネスの楽しさ

「もともとはプライベートバンキングの仕事をしていました。ある意味ラグジュアリーな世界ですが、1年半で自分には全く向いていないと気づいたのです。コンピューターと向き合い、ひたすら財務について追求する毎日で、うんざりしました。私がやりたいのは、直接触れて感じることができ、誇りに思えるようなモノを作る仕事でした。そしてラグジュアリービジネスに惹かれていったのです。
 そこには特に興味を引かれる点がありました。製品の“クオリティ”ということです。クオリティが意味するものは、専門的技術の伝承、歴史だけでなく、顧客との精神的な結び付きも含まれます。この点を追求することがとても面白いから、ラグジュアリーに魅力を感じ、この世界で長いことやってこられたのだと思います。
 ブランディングやマーケットリサーチ、高級商材にはずっと興味を持っていましたが、最初に足を踏み入れたのは、偶然にもファッション業界でした。最初にオファーをもらったのがLVMHグループのファッション部門だったからです。
 ファッションは魅力的な世界でした。子供服のボンポワンでも、ジェイエムウエストンでも、ディオールでも、ルイ・ヴィトンでも、すべてはデザイナーのインスピレーションとスケッチから始まります。しかしそれだけではダメで、マーケティングやPRなど、他のすべてと協業しなければなりません。最終的に製品を通じて表現しなければならないのは、そのブランドの世界観なのです。ここがファッション・ビジネスの面白いところでした。
 デザイナーとの仕事は楽しい面と難しい面がありますが、やはり楽しいほうが勝ります。彼らと街を歩くと、後ろにも目がついているかと思うほど、私たちとは違う見方をしていて、そこが面白いし刺激を受けます。
 一方、消費者の動向にも、常に驚かされます。マーケットは全世界ですが、国ごとに需要は異なります。新製品を発売する度に、リスクを覚悟しなければなりません。発売してみて、意外な結果に驚かされることが多いのです。できれば、ポジティブな驚きだとよいのですが、そればかりではないことはご想像の通りです。
 この業界では、長く働くほど、自分がブランドのDNAを理解しているという自信がついてきます。かといって、顧客の考え方が自分の予測通りになるわけではありません。そこが難しく、また楽しいところです。
 消費者の動向は、この20年間で急速に変化しました。かつてはクオリティはさておき、ステータスやブランドロゴが求められていました。しかしこの10年で、状況は一変しました。人々がロゴよりも“本物”であることを求めるようになったのです。それは私たちにとっては、好ましい変化です。このトレンドは、中国にまで広がりを見せています。
 もうひとつ、2000年頃から始まったトレンドがあります。それは、人々が価値観を共有できるブランドを求めるようになったことです。製品を買い、自分で楽しむだけでなく、ブランドを通じて自分の価値観を、外に示すことが重要になったのです」

Eric Vallatエリック・ヴァラ
レミーマルタン社CEO。1993年パリHECビジネススクール卒業。投資銀行にて働き始めるが、馴染めず、ルイ・ヴィトンへ入社。3年後、ルイ・ヴィトン・フランス社のCEOに任命される。2004年にはクリスチャン・ディオール・クチュール・ジャパンのCEOに就任。2008年にパリへ戻り、ボンポワン、ジェイエムウエストンなどの責任者を務める。現在は最高級酒ブランドのレミーマルタン、ルイ13世のすべてにおいて、最高責任を負う立場である。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 17
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