Monday, August 26th, 2019

MICHAEL FASSBENDER
LOVING THE ALIEN
変人役を愛でる理由

個性的な監督たちに愛され、驚くべき役柄で観客を魅了してきたマイケル・ファスベンダー。
突然の休業宣言の裏には、どんな思いがあったのだろうか。
text shiho atsumi

 マイケル・ファスベンダーのキャリアは、『それでも夜は明ける』のオスカー監督スティーブ・マックイーン抜きには語れない。2008年、既に気鋭の映像作家として知られていたマックイーンの長編デビュー作『ハンガー』に主演した彼は、20kg近くも体重を落とし、IRAの囚人たちのハンガーストライキを体現。一気に映画界に躍り出た。そしてさらなる衝撃を与えたのが、セックス依存症の男の日常を描いたマックイーンの第2作『SHAME -シェイム-』(2011年)だ。
「当時はこんな風に考えていた。“僕にはわかってる。映画にはもっと多くのもの―ペニスを出すこと以上のものがあるはずだ”って。でも取材に来たある女性ジャーナリストが、それを蹴散らすように真っ先に聞いてきた。“それで、大きいペニスを持つってどんな感じですか?”。そして記事には、僕が女を弄んでると書かれた。馬鹿げてるよ。全部間違ってる。あの映画のセックスシーンの胸糞悪さは、そのまま主人公の絶望の深さを表しているのに。でもふと気づいた。画面に描かれるのは彼女にとって面白くもない、セックスするに値しない“ある男の姿”である以上に“僕の姿”で、映画はそれを売っているということに。すべて了解したよ。当時の僕は、自分自身を真剣にとらえすぎていたんだと思う。母は映画を見るたびに言ってた。“女はいつも裸なのに、なんで男はいつも前を隠してるの?”って。だから僕は言うんだ。“この作品は母さんのための映画だよ”ってね」
 過激な性描写ばかりに注目が集まったことに困惑しながらも、彼は『SHAME -シェイム-』を「役を最も深く掘り下げ、別の場所にいるような感覚になった作品」として位置付ける。一方のマックイーンもまた、「ファスベンダーがいなければこの作品は撮れなかった」と語っている。彼が称賛するファスベンダーの一番の魅力は“女性性”だ。
「そもそも彼はとても男性的なタイプだ。男の中の男と言う人もいるだろう。でも私が彼を高く評価する理由、そして観客が彼に惹かれる理由は、自分の役が観客と結びつくためにどう演じたらいいかをよく理解していることだ。多くの映画スターは普通の人間以上の存在で、観客との間には壁がある。マイケルの持つ壊れやすさはそのバリアを感じさせず、観客と役を結びつけることができる」
 そうした自身の魅力を意識しているのか、それとも無意識なのか。ファスベンダーが選ぶ役はどれもひと筋縄ではいかない。凡百の俳優なら臆してしまうに違いないものばかりだ。例えば、デヴィッド・クローネンバーグ監督作品の『危険なメソッド』(2011年)では、実在した心理学者ユングが性的虐待のトラウマを持つ女性患者に溺れてゆく様を演じている。『それでも夜は明ける』(2013年)で演じたのは、幼い黒人の少女を性奴隷にし、ときに壮絶な鞭打ちを与えるサディスティックなプランテーション経営者である。また『FRANK -フランク-』(2014年)の天才ミュージシャンは、幼い頃に心に負った傷ゆえに素顔を見せることができないという役どころだ。全編を通じて大きなお面をかぶっていて、ファスベンダーの顔はラスト約10分まで映らない。
「終わってしまったことを振り返るのは意味がない。もう変えられないからね。たとえとんでもない間違いだったとしても、多分、大概は単なる経験でしかないんだよ。物事を慎重に運ぶことができないならば、殉教者となることへの強迫観念や自己嫌悪を楽しんでしまったっていい。なんだって“いつものこと”と思えるようになってしまえば、心地よくなってくるものだ。僕はその手のことを『SHAME -シェイム-』で学んだ。たとえそのときはヘトヘトになったとしてもね」

Michael Fassbenderマイケル・ファスベンダー
1977年ドイツ生まれ。2歳の時にアイルランドに移住。TVシリーズ『バンド・オブ・ブラザース』に役を得た後、2008年の映画『ハンガー』で注目を集める。『SHAME -シェイム-』では数々の賞を受賞。『イングロリアス・バスターズ』、『X-MEN』シリーズ、『スティーブ・ジョブズ』『光をくれた人』などの作品に出演。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 17
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