MICHAEL FASSBENDER
LOVING THE ALIEN

俳優:マイケル・ファスペンダー 変人役を愛でる理由

August 2019

text shiho atsumi

アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたダニー・ボイル監督作品『スティーブ・ジョブズ』(2015年)。怒涛の情報量に圧倒される作品。
Photo by Getty Images

「終わってしまったことを振り返るのは意味がない。もう変えられないからね。たとえとんでもない間違いだったとしても、多分、大概は単なる経験でしかないんだよ。物事を慎重に運ぶことができないならば、殉教者となることへの強迫観念や自己嫌悪を楽しんでしまったっていい。なんだって“いつものこと”と思えるようになってしまえば、心地よくなってくるものだ。僕はその手のことを『SHAME -シェイム-』で学んだ。たとえそのときはヘトヘトになったとしてもね」

巨匠との3度目のタッグ「思うに、偉大な監督というのは人を操ることに長けているんだ。そうでないと務まらないのは、当然のことではあるけれど。撮影を進めていく過程で、彼らにはいつも巧妙に導かれているように思う。ひとたびセットに入ると、立ち上がり走っているんだよ。『SHAME -シェイム-』の撮影では、僕は“自分が最高の役者だとスティーブに見せてやれ。彼をがっかりさせるな”と思っていた。それが俳優たちだけじゃない、すべてのスタッフにいきわたっていたんだからね」

 だがそんな監督の要求にすべての俳優が応えられるかといえば、それは違うだろう。マックイーンが新作のたびに必ずファスベンダーをキャストするのは、それに値する俳優だからに他ならない。監督と俳優のそうした幸せな関係を、彼は別の監督とも築き上げている。巨匠リドリー・スコットだ。

「彼の映画にはアクションと恐怖があり、さらに登場人物のキャラクターもしっかり描かれている。観客として料金を払うに見合う作品なんだ。それに、生命と死後の世界にまつわる疑問について考えさせる―もし実際にあったら、ってね。それが彼のすごいところだ」

 最初のコラボレーションは『エイリアン』シリーズの前日譚『プロメテウス』(2012年)。さらにその翌年の『悪の法則』を経て、主演最新作『エイリアン:コヴェナント』へと続く。ファスベンダーが演じているのは前作と同役のデヴィッドと、今回新たに登場するアンドロイド、ウォルター。つまり、アンドロイドの一人二役だ。

「ウォルターはデヴィッドの別バージョンと言えるね。デヴィッドは、人間らしいパーソナリティが育つようプログラムされたタイプで、だからこそ人間を怖がらせたんだ。それゆえに次世代型のウォルターは、人間的な特徴が削られている。感情のないロボットみたいな感じだ。今回の作品に登場するデヴィッドは、10年にわたって蓄積された“人間らしさ”が、アンドロイドとしてのパーソナリティと同じレベルにまで達している。彼に冷え冷えとしたものを感じさせるのは、彼の“人間らしさ”―エゴ、プライド、野心なんだ。すごく不気味なのはそこだね」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 17
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