August 2021

HERMÈS LE CUIR
エルメスの革の物語 第1回

エルメスの道具、そして作られるもの

革に穴をあけるためのキリ。

メゾンのエンブレムのひとつカデナ(南京錠)。

それぞれの道具 切り出しナイフ、木槌、革漉き包丁、コンパス、グリフ(菱目打ち)、キリ、ハンマー、ペルロワール( たがね)、先の丸い針、真っ直ぐな針、曲がった針、パンス(馬)、ペンチ、アイロン、糊付け用の筆、へら……道具の数だけ手作業の工程がある。道具の持ち手の木の部分は長年使っているので底光りしている。職人はみな、入社時に自分用の道具ひと揃いをもらう。道具の貸し借りはしない。使っているうちに、自分の手になじんでいく。

 誰しも自分の道具には、特別な思い入れがある。職人技の習得も、道具の精密さ次第。これらの道具類は、使い勝手の点で多少は進化しているものの、ティエリ・エルメスが約180年前の1837年に会社を始めたときに使われていたものとほぼ変わらない。サドルステッチの完成度も、針穴のサイズひとつ、素材を突き通す革通しの先や革漉き包丁の調整ひとつで決まるのだ。

 革を均一に薄くするために革を漉く、歯が傾いた櫛を使って目印を付けるか挟む、キリで穴を開ける、革のピースを糊付けする、磨いて滑らかにするために断面をつや出しする、留め金の小さな鋲の先を均等に打って整え、丸い頭をこしらえる、縫い目を槌で打つ、捻引きをする、ロウ引きして染める……エルメス特有の解釈において、完璧に極められたこれらの手しごとは、それぞれの機能や段階において、なくてはならないものなのだ。

卓越した素材 エルメスの革は、それを目にすると同時に、本能的に手を伸ばして触れたくなる。エルメスの革は生きている素材、いつも変化し続けるメゾンのメタファーなのだ。

《ボリード》のファスナー部分。初めてジップ式のバッグを作ったのはエルメスだとされる。

縫製に使われるリネン製の糸。蜜蝋をコートして使われる。

本記事は2021年5月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 40

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Contents

<本連載の過去記事は以下より>

エルメスの幸せな職人たち