August 2021

HERMÈS LE CUIR
エルメスの革の物語 第1回

エルメスの道具、そして作られるもの

革の表面に縫い目のための印を付ける道具=グリフ(菱目打ち)。

名作バッグ《ケリー》の美しく構築的なサイド部分。

鍵となる道具と手しごと アトリエでは時が止まっているかのようだ。素材としての限界を確認するために、職人たちは妥協することなく革に向き合っている。

「革とは、まさに現実との対決です」と、エルメスのアーティスティック・ディレクターであるピエール=アレクシィ・デュマは強調する。さまざまな音のぶつかり合い。鋲の先端を丸く整える甲高い音とハンマーの鈍い槌音。立ち上るさまざまな匂い。革の滑らかで、力強く、生っぽいアロマは、縫製用の麻糸を保護する蜜蝋の甘い香りに揺らいでいる。

 職人たちによる仕事が、オブジェの真正さと耐久性を保証する。根気、正確さ、スタンダードレベルの巧みさ、どんなときも、そこに幻想の入る隙すらない。高品質のオブジェを創るために道具を操るのは職人だ。そしてわずかな感覚や手先の小さな動きで、すべてを変えることができる。職人は自分の仕事の良し悪しを、目を閉じて万にひとつのざらつきはないか、革の断面がシルクのように柔らかいかを確かめる。

 エルメスのサヴォワールフェールはあって当然であり、きわめて自然なものと思われるかもしれないが、それは、ひとたび完成してしまったら二度と同じようにはできないような、そして感じ取れないほど小さな作業のつながりの上に成り立っているのだ。

正確に漉かれ、厚みを調整されたレザーパーツ。

取り付けられる前のバッグ《ケリー》のハンドル部分。

本記事は2021年5月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 40

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Contents

<本連載の過去記事は以下より>

エルメスの幸せな職人たち