HERMÈS LE CUIR
エルメスの革の物語 第3回

エルメスのバッグ、その素晴らしさ

January 2022

photography jack davison

Clou Médor〔クルー・メドール〕
ピラミッド型がモチーフ

20世紀初頭、エルメスはピラミッド型の鋲(クルー)の付いた、とてもエレガントなレザー製の犬の首輪を考案した。1920年代には、それはアクセサリーやベルトになり、1993年にはパンクシックなテイストで、文字盤がカボション型の飾り鋲の下に隠れたシークレットウォッチ、《メドール》となった。エルメスのシンボルとして《メドール》は遊び心ある八面体の飾りとして、常にメタモルフォーズを続けている。革張りのパーティーバッグ《クルー・メドール》は、クラッチのように手持ちもでき、取り外し可能なバンドリエールをつけるとショルダーにもなる。デリケートな回転式の留め金はやはりピラミッド型で、他のアイテムと合わせて《メドール》の重ね付けを楽しむこともできる。

New Drag〔ニュー・ドラッグ〕
往年の旅行鞄に
インスパイアされた

《ニュー・ドラッグ》は、大西洋横断航海が広まった1920年代のトラベルバッグにインスパイアされている。1960年代初頭にロベール・デュマがデザインを新たに施し、非常に細長いハンドルを付けたハンドバッグに生まれ変わらせた。「ドラッグ」は、イギリスの田舎道を走る専用馬車を指す名前だ。構築的で厚みのあるシルエットを見直し、新たに長方形の《ニュー・ドラッグ》となった。前面、背面、そしてフラップは一枚革、カデナとハンドルに付けたクロシェットも革で覆われている。華奢なつまみは、本体に巻き付いているように見える取り外し可能な幅広のバンドリエールと対照的だ。

Birkin〔バーキン〕
偶然の出会いにより生まれた永遠の傑作

この憧れのオブジェは、ある即興劇のような出会いから生まれた。1984年、当時エルメスの社長を務めていたジャン=ルイ・デュマは、ロンドンからパリへの機内でジェーン・バーキンと偶然に出会った。母になったばかりのイギリス出身の女優は、新しい生活にふさわしいバッグが見つからないとこぼした。生来のクリエイター、ジャン=ルイ・デュマはすぐさま、柔らかな素材でたくさん物が入り、普段使いできるリラックススタイルのバッグの絵を描いた。そこにはエルメスの象徴的なデザインコードのすべてがあった。カットされたフラップ、アスティカージュによる縁仕上げ、2本の丸いハンドル、サングロン、トゥレ。今では、あらゆる色、あらゆるサイズ、あらゆる素材で新たなバリエーションが続々と提案されている。その現代的なデザインはどんな使い方でも物ともしない。《バーキン・シャドウ》はだまし絵遊び、《バーキン・ソー・ブラック》は全メタルパーツに至るまで黒一色、《バーキン・セリエ》は建築的なフォルムが美しいモデル、しなやかで機能的な《バーキン・カーゴ》はミリタリーウェアに着想を得たキャンバス製……新たな創造は途切れることなく続いている。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 42
1 2 3 4 5

Contents

<本連載の過去記事は以下より>

エルメスの道具、そして作られるもの

エルメスの幸せな職人たち