November 2021

RELIGIOUS CONVERSION

ロロ・ピアーナが誇る
“タスマニアン”の魅力

極細、丈夫、そしてラグジュアリー。
ロロ・ピアーナを代表する生地、タスマニアンは、常にアップデートされている。
その魅力を語ろう。
text tom chamberlin

タスマニアンの最新キャンペーン・ビジュアルより。一見スーツとは似つかわしくない状況で撮影されているのは相変わらずだ。季節を問わず着られ、快適で、思わずアクティブになってしまう!?

 20世紀前半、ロロ・ピアーナは“プリースト・クロス”と呼ばれる生地を製造していた。これは聖職者の法衣に使われていたものだ。ウールはオーストラリアのタスマニアから輸入された。タスマニアは、オレンジにとってのカリフォルニアや、メープルシロップにとってのオンタリオのように、羊毛にとって故郷ともいえる重要な地域だ。

 教会にとって十分なものは、一般の人々にとっても十分なものだろう。そして、少しでも軽く、1年中着られるような生地を作ろうと、1960年代に“タスマニアン”が誕生したのだ。

 タスマニアンの広告は、不自然さと不条理さがテーマだった。その生地で作られたフォーマルなスーツを着て、ロバに乗ったり、スキー板を履いたり、マンホールから顔を出したりと、まったく似つかわしくない状況で撮影されている。“ロロ・ピアーナを着ると、つい悪戯がしたくなる”とコピーには書かれている。その皮肉めいた台詞は、品質に対する自信を表している。“スーツオーダーは癖になるが、この生地を着るのも病みつきになる”ともある。

 ロロ・ピアーナの生地は、テーラーが自信を持ってすすめることができ、また顧客が確信とともに選ぶことができるものだ。オーダーメイドの経験がある人なら誰でも知っているが、もし選んだ生地に失望してしまうと、次に同じメーカーを検討することはまずない。

 タスマニアンは、今でも季節を問わない生地のベンチマークとなっている。2000年代に入り、ワードローブのオーダーメイド・スーツは1着か2着しかないという時代になって、紳士たちは1年のうちのできるだけ長いシーズンに亘って、さまざまな状況に対応できるようなスーツを求めるようになった。そのため、軽量(250g/㎡)で持ち運びに便利で、夏は通気性があり、冬は寒さを防ぐのに十分なものが求められた。

 この生地は、大成功を収めた。“タスマニアン”という言葉は、イタリア語の辞書に“軽いウール生地”の同義語として載っているほどだ。しかし、ロロ・ピアーナの常として、彼らは限界に挑戦し、成功に甘んじることなく、責任あるエシカルな布の生産を目指している。

 例えば、ミュールシング・フリーのウールを使用するという取り組みがある(ミュールシングとは、羊への蛆虫の寄生を防ぐため、子羊の臀部の皮膚と肉を切り取ること。通常無麻酔で行われる)。ロロ・ピアーナでは、昨年末までに、16ミクロン以下のウールはすべてミュールシング・フリーとなった。2021年末までに17.5ミクロンまでのすべてのウールを100%ミュールシング・フリーとすることを目指している。

 これがタスマニアンとどう関係するのだろうか? 実はタスマニアンは生まれ変わっていたのだ。快適さと耐久性の両面で評価が高い、二重に撚り合わされたメリノウールを使った最新バージョンは、16ミクロンの基準値を下回る15ミクロンの原糸が使われ、規格としてはスーパー170’sとなっており、オーストラリアのオークションで調達されたこの新しい糸は、1kgで104kmも伸びるほどの細さだ。

 これは、この豪華な生地を作るために用いられたクラフツマンシップのほんの一部だ。イタリアの工場では、目の肥えたスタッフが生地を隅々までチェックし、徹底した品質管理が行われている。だからこそ、細かいディテールで成り立っている職業=テーラーは、自信を持って顧客に品質を保証できるのだ。

オーストラリア南海岸沖に位置する離島タスマニアでは、良質のウールが生産されている。エシカルな基準によって得られた原毛は、ロロ・ピアーナの手によって至高の生地となる。

 今日のタスマニアンの広告は、相変わらず力強さと冒険の物語を継承している。それは現代の冒険家のためのファブリックであり、世界で最もラグジュアリーなファブリックを作るというロロ・ピアーナのミッションを表現している。ロロ・ピアーナはこれを“バーサタイル(多目的な)・エレガンス”と呼んでいる。

 スーツをオーダーメイドしたいと考えている顧客は、どのテーラーにお願いするかをじっくりと考えるだろう。投資額が大きいだけに、信頼性が重要なポイントになる。

 スーツオーダーにおいて、生地メーカーはしばしば二の次にされてきた。すなわち紺のウーステッドは、きっとどこも同じだろうという考え方だ。しかし、一見同じに見えるバイオリンでも、アマゾンで買った安物とストラディバリウスが違うように、ロロ・ピアーナの生地を選ぶことは、まったく異なる体験を得ることなのだ。

歴代のロロ・ピアーナによるタスマニアンの広告ビジュアル。一見スーツとは似つかわしくない状況が選ばれているのは、品質に対する自信の表れだ。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 42

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