January 2022

HERMÈS LE CUIR
エルメスの革の物語 第3回

エルメスのバッグ、その素晴らしさ

photography jack davison

Bolide〔ボリード〕
初めてファスナーを
取り入れたバッグ

1923年にデビューした《ボリード》は、革新的な丸みのあるデザインを持つ。その特徴は、なんといっても留め具に使われたファスナーだ。エミール・エルメスが、カナダを訪れた際に自動車の幌に使われていたのを見て、このバッグに取り入れたのだ。このファスナーを採用したバッグは、当時の自動車の丸みのあるトランクに簡単に積み込めるデザインから、“自動車用バッグ”と呼ばれていた。新しいライフスタイルにぴったりの《ボリード》は、革の彫刻のような無駄のないフォルムの美しさが特徴だ。平革よりもはるかに難しい丸革を使って頭絡を製造し、馬を美しく引き立てることに成功した、エルメスの馬具作りの技が、2本のハンドルの実現を可能にした。当初より《ボリード》は、ハンドバッグでもありトラベルバッグでもある存在だった。サイズのバリエーションも豊富だ。

Herbag and Hermès Spacer〔エールバッグ〕と〔エルメス・スペーサー〕
伝統と革新の表れ

軽やかで機能的な《エールバッグ》は、エルメスの伝統と革新の表れだ。エルメスを象徴する《ケリー》に着想を得つつ、さらなる進化を目指し1998年にデビューした。わずかに丸みを帯びた軽くカラフルなキャンバス地は、完全に縫製されるのではなく、金属の枠組みに支えられ、レザー製のフラップの上に固定されている。ストラップや、クロシェット、中央の「クルー・ド・セル」の留め金などにエルメスらしさが溢れている。《エルメス・スペーサー》は、メゾンのスポーツのエスプリを革新的な素材によって表現したバッグだ。シームレスで立体的に編み上げるテクニカルなニット素材を使用している。裏も表も美しいので、ライニング仕上げの必要もない。革製品と呼応するように開発された伸縮性に優れたニットは、イノベーションのたまものだ。革のハンドルと、イタリック体のHが箔押しされたバッグの底を結び付けている。たくさん物が入るのに軽い。柄はインパクトのあるジャカードだ。

Évelyne〔エヴリン〕
スポーティなショルダータイプ

このモデルの特徴のひとつは、馬の蹄を思わせる楕円の中の、H字型のパンチングだろう。1978年に誕生したこのバッグは、デザインを手がけたデザイナー本人の名前に由来する。後に馬具部門の責任者となる彼女が、馬の手入れに必要な道具一式を運ぶのに便利なこのバッグをデザインしたのだ。まだ濡れたままの道具―スポンジ、ブラシ、馬櫛など―をバッグに無造作に放り込んでも、H字型のパンチングから空気が抜けて、乾かしてくれる。男女を問わず日常使いに最適、ウルトラスポーティなこのバッグには、馬具の腹帯を模したショルダーストラップが採用されている。乗馬のエスプリを持つ《エヴリン》に施されたエンボス加工の「Hディアマン」は、1926年のカタログに載っていた馬着の柄からヒントを得たものだ。

Picotin〔ピコタン〕
腕に掛けて使う、小さなダッフル

乗馬の世界から来た、2002年生まれの小さなダッフルバッグ。バスケットのように腕に引っ掛けて使う。バッグの名前は、馬の餌であるカラス麦の容量単位を意味している。ライニングのない一枚革、つつましやかなハンドルが特徴だ。《ピコタン》はその軽やかで若々しいアリュールが魅力である。カデナが付いた細長いストラップで、バッグの口を閉めることができる。しなやかで実用的、そして、シンプルなデザイン。素材の美しさが引き立つバッグだ。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 42
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Contents

<本連載の過去記事は以下より>

エルメスの道具、そして作られるもの

エルメスの幸せな職人たち