March 2024

DIRECTOR’S CUT

ポール・フェイグ:スーツが与えてくれた人生の転機

スカルモチーフのカフリンクスは、数あるお気に入りアクセサリーのひとつ

ファッションは「これしかない」という直感で決める スーツを着る必要はないし、僕も以前はスーツを着ていなかった。スタンドアップ・コメディをやっていたときは、ヴィンテージのボウリングシャツに、ジーンズじゃないけどバギーパンツやカラフルなコンバースを合わせたスタイルだった。自分は面白い人間で、ルーズで、地に足がついていると主張したかったんだ。

 白シャツとくたびれたネクタイで漫然とスーツを着るようなことはしたくない。華のあるスタイルにしなきゃ。スーツは僕のトレードマーク。認めるかどうかは別として、人は会った瞬間に身なりで相手を判断している。それはどんな仕事にもいえることだと思うよ。監督である僕は、船長のような存在だから、なおさらきちんとしていたいと思うね。

転機が訪れたのは、テレビドラマ『フリークス学園』を終えた頃だった『フリークス学園』は自分の高校時代を振り返ったような作品だったから、撮影中は髪を伸ばして、ジーンズやTシャツを着ていた。けれどこのテレビドラマが終わって映画界に進出すると、重役連中との会議に出席することになった。相手はスーツにネクタイ姿、僕はTシャツとジーンズで低い椅子に座るんだろうか。けれど、そういう力関係は好きじゃなかった。

 だから、彼らと対等になるために大人になって、スーツに戻ろうと考えた。昔の写真を見ても、セットにいる映画監督はスーツとネクタイで決めている。そこで僕も装いを改めようと考えて、新しいスーツを買いにいき、タイドアップして、初めての会議に出席したんだ。このときが確実に、僕の転機だね。

その頃のハリウッドでは、すでに「スーツ族」になりたくないという風潮が広がっていた「おや、スーツ族が来たよ」と揶揄されるようになって久しい。僕は誰もがTシャツとジーンズ姿で参加する打ち合わせにもスーツとネクタイで行くから、異色の存在だ。でも、大人の気分が味わえるから、この力関係が心地いいと思うし、何より自分に自信が持てる。スーツは何かをプラスしてくれるんだ。僕も監督らしく見えるしね(笑)。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 15
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