January 2017

COUP DE GRACE

グレースという贈り物

text nick foulkes

子供たち(カロリーヌ公女、アルベール公子、ステファニー公女)とポーズを取る大公と公妃

予期せぬ出来事の連続 結婚前で不安を抱えていたであろうケリー家をよそに、ある事件が起きた。オテル・ド・パリのスイートルームに宿泊していたグレースたちの招待客のジュエリーが盗まれたのだ。ニューヨーク・タイムズ紙は、そのジュエリーが「推定価値5万ドル」であると報じ、犯人を「リヴィエラの泥棒」と呼んだ。

 物語はさらに意外な展開を見せた。結婚式当日、レーニエ大公の母君が、お抱えの運転手を連れ立って式へとやってきた(そのため恋人関係にあるといわれた)。ところがこの運転手は、かの有名な宝石泥棒のルネ・ラ・カン(ステッキのルネ)と呼ばれる人物だったのだ。

 この宝石泥棒は、ついこの間まで刑務所に入っていたにもかかわらず、報道にすぐ正体を気づかれた(彼のぴっちりした白い制服は、変装の役に立たなかったのだ)。宮殿内での撮影の許可されていなかった報道陣たちは、招待客を買収し、代わりに中の様子を撮ってもらおうとしたものの、うまくいかなかったため、この宝石泥棒を見つけて大喜びした。

 ただ、4月の婚礼の日々は天候には恵まれなかった。雨が降りしきる中、写真も撮れずじまいで、しかもずぶ濡れになって不満を募らせていた報道陣は、モンテカルロ・スポルティングクラブの入口で制止された時点で怒りを爆発させ、警察と殴り合いになった。

 さすがのジャック・ケリーも、義理の息子に同情し始めたらしく、こうした逆境を向かってくる拳になぞらえて、「大公は柔軟に切り抜けねばならないだろうね」と言ったと伝えられている。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 13
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