June 2017

BLOOD PRESSURE

共演で取り戻した“親子”

text stuart husband
issue11

婚約者だったジュリア・ロバーツとキーファー(1990年)

 キーファーは、10代の頃は父の名声に気づいていなかったという。ドナルドが『M★A★S★H マッシュ』で誰を演じたのかさえうろ覚えだった。父と子の関係は、ドナルドとジュリー・クリスティによる迫真の濡れ場が称賛されている、薄気味悪いゴシックホラー『赤い影』(1973年)によってさらに複雑になってしまった。キーファーは、父の出演作のなかでも『赤い影』は特にお気に入りの作品だと言う。

「でもジュリー・クリスティは憧れだったから、父を手で隠して観ていたよ」

 その後、80年にはロバート・レッドフォード監督が崩壊する一家を描いた『普通の人々』が公開された。公開から数年後、キーファーは同映画でドナルドの息子を演じたティモシー・ハットンにばったり出会ったときのことを、こう思い返している。

「当時22歳くらいだった僕は、ティモシーのもとへ歩み寄って、“僕と父の時間は奪われた。僕は父のもとで育つことができなかった。父とのあの時間が欲しかった”と言ったんだ」

 キーファーは自分より父と長い時間を一緒に過ごした役者に嫉妬を感じていた。しかし、その寂しさを吹き飛ばすように80年代の日々を若手人気スターたちとともに駆け抜けていった。ティーン向けのヴァンパイア映画『ロストボーイ』(1987年)では、父の威厳を真似るように逆毛を立てたヘアスタイルで出演し、アドレナリン全開の西部劇映画『ヤングガン』(1988年)では、エミリオ・エステベスやルー・ダイアモンド・フィリップスとともに馬を颯爽と乗りこなした。そんな両作品を、キーファーは深く心に刻んだようだ。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 11
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