A MODERN GREEK DRAMA

海運王オナシスの強欲

February 2024

400万ドルかけて改造したクリスティーナ号のバー。スツールには、クジラのペニスの皮が使われている。

甘美な企みに満ちた派手な女性関係 オナシスの複雑な女性関係の多くは、この「浮かぶ快楽の殿堂」が舞台となる。こと有名な美女を誘惑することにかけては、オナシスのほうがニアルコスよりも優れていた。実際、クリスティーナ号では、つねに誰かと誰かがベッドにいたり、浮気現場を見つけたりといったジョルジュ・フェドーの艶笑劇さながらの光景が繰り広げられていた。

 あるとき愛人関係にあったオペラ歌手のマリア・カラスは、オナシスの持ち物のなかにカルティエのダイヤのブレスレットがあるのを見つける。そこには「僕の愛しい人」に宛てた手書きのカードが添えられていたため、カラスはそっとその“サプライズギフト”を元の場所に戻し、何食わぬ顔でプレゼントされるのを待つことにした。ところが、カラスが次にそのブレスレットを目にしたのは、社交界の花でジャクリーン・ケネディの実妹でもあったリー・ラジヴィルの腕元だった。

 カラスはすぐさまクリスティーナ号のメイド長をつかまえて、リーがオナシスの寝室にいたことはあるかと問いただした。それに対するメイド長の答えは、ピーター・エヴァンスの評伝『Nemesis: The True Story of Aristotle Onassis, Jackie O, and the Love Triangle That Brought Down the Kennedys(宿敵:アリストテレス・オナシスとジャッキー・O、そしてケネディ家を破壊した三角関係の真実)』に記録されている。いわく、「彼女に対して嘘はつきたくありませんでしたので、こう答えました。『いいえ、Mr.オナシスの大きなベッドでお休みになられるのはマダムだけです』。もちろん私は、Mr.オナシスが別の部屋でリー様とご一緒だったことは知っていました。何しろ大きなヨットですから」。

 周知の通り、その後カラスもラジヴィルも用済みとなり、オナシスの愛情(あるいは欲望)は、ジャクリーン・ケネディへ向けられる。オナシスが後年「我々の初めてのファック」と乱暴に表現したジャクリーンとの最初の逢瀬も、やはりブレスレットから始まるのだった。

 彼女の宝石箱が少々さびしいことに気づいたオナシスは、船上からヴァンクリーフ&アーペルに連絡を取り、何か適当なものを見つくろって、クリスティーナ号まで届けるように指示した。マリア・カラスは、「彼の女性への理解は、ヴァンクリーフ&アーペルのカタログで培われているのよ」と皮肉たっぷりに語った。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 01
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