Tuesday, January 27th, 2015

A MODERN GREEK DRAMA
海運王オナシスの強欲

それは過剰なまでの虚栄心、狡猾な情事と不道徳の物語。
ふたりのギリシャの海運王の出会いは、
20世紀最高の宿命の対決の始まりだった。
original text nick foulkes translation mari kiyomiya

 “ギリシャの海運王”̶̶ それは、第二次世界大戦の終結から中東の石油王が台頭するまで、人々の思い描く「金持ち」の姿そのものだった。特に青春時代を1950年代から60年代に過ごした世代にとって、リバノスやエンビリコスは、21世紀の現在に例えるなら、ベレゾフスキーやアブラモヴィッチといった、ロシアの新興財閥や中国の大富豪のような存在といえるだろう。
 かつて強大な商船隊を誇っていたギリシャ人たちは、世界中の商品と原料を運び、そのオーナーたちも自ら美しいヨットを操って世界中を航海していた。そして美しい妻やたくさんの愛人たちを世界最高の宝石商から購入した宝飾品で飾り立て、オークションでは印象派の名画を競り落とし、エーゲ海に浮かぶ島に自分だけの王国を作り上げた。彼らは、19世紀後半から1929年の世界恐慌まで続いたアメリカの“金ぴか時代”の大富豪たち(カーネギー、アスター、ヴァンダービルト、ロックフェラー)のように、けばけばしく派手な権力者の典型として風刺されたのだった。

ロマン無しに興隆した
ギリシャ海運業

 それ以前、19世紀の海を支配していたのは大英帝国。1886年当時の『ロイド船舶登録簿』によれば、世界の63.6%の汽船を保有するイギリスが1位に君臨する中、ギリシャはわずか0.5%の最下位。しかし第一次世界大戦後から、その力の均衡が徐々に崩れ始め、さらに第二次世界大戦を契機に海運業界の勢力図は大きく塗り変えられることになる。
 第二次世界大戦後のギリシャ海運業界の発展は、余剰化したアメリカのリバティ船(戦時中の米貨物船)100隻がギリシャ政府に払い下げられ、さらに追加の数百隻が破格の値段でギリシャの海運業者に買い取られたところから始まる。総じて、戦後の情勢はギリシャ人に味方した。朝鮮戦争やスエズ危機は海運業界に特需をもたらし、1950年代の製造業における好景気は、高価な大型車やジェット機の燃料である石油を運ぶ大きな船を必要としたためだ。
 1972年を迎える頃、そのわずか25年前にはぼろぼろの余剰船を譲ってくれとアメリカに頼み込んでいたギリシャが、船腹量3,700万トンの世界第4位の海運大国に成長していた。そしてその巨大な海運力とそれに比例する経済力を行使していたのが、世界各地に散らばった140ほどのギリシャ出身の一族だった。
 原料や燃料、食料の海上輸送業は、一見、魅力的な職業には思えない。儲かったとしても、仕事としては少々退屈そうだ。そもそもギリシャ人は、数千年にわたって航海を続けてきたが、古代ギリシャの時代ならいざ知らず、海運業に特別な夢や冒険の要素は見受けられない。 そこに突如として現れたのが、葉巻とサングラスと美女を愛する小柄なギリシャ男、アリストテレス・ソクラテス・オナシスだった。「20世紀最大の海運王」と謳われたオナシスは、まさに「計り知れない富」を象徴する存在となる。

issue01_05_01

1957年、モンテカルロ港に停泊中のオナシスの豪華ヨット「クリスティーナ号」。全長325フィート(99.06メートル)の威容は、ほかのすべての船舶を小舟のように見せた。

issue01_05_20

18世紀に建てられた大邸宅にて、エル・グレコの絵画『ピエタ』の前に立つスタブロス・ニアルコス。膨大な美術品のコレクションでも知られた。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 01
1 2 3 4

Contents