Tuesday, January 27th, 2015

A MODERN GREEK DRAMA
海運王オナシスの強欲

それは過剰なまでの虚栄心、狡猾な情事と不道徳の物語。
ふたりのギリシャの海運王の出会いは、
20世紀最高の宿命の対決の始まりだった。
original text nick foulkes translation mari kiyomiya

ギリシャ海運業を支えた
ふたりの大富豪

 オナシスの華やかで波乱に満ちた生涯は、終焉を迎えようとしていたオスマン帝国で始まるが、実は正確な生年月日は現在にいたるまでわかっていない。1975年に死去した際、ひつぎのプレートには「1900年~1975年」とあったが、墓石には「1906年生まれ」と刻まれている。彼はタバコ商人の息子としてスミュルナ(現トルコのイズミル)に生まれた。一家はトルコ軍占領下で難民となり、やがて若きオナシスはわずか250ドルを手に、三等船に揺られてアルゼンチンに向かった。
 それでも南米に移住して数年も経つ頃には、紙巻タバコの商売で最初の財産を築く。オナシスは生涯を通じて、贈収賄や商標権侵害、妨害工作、密輸、その他さまざまな不正行為や詐欺まがいの行為の噂が絶えなかったが、頭のなかはとにかく上を目指すことしかなかった。
 1930年代に入る頃には、十分に裕福だった。人とは違う考え方をし、いちかばちかの賭けを恐れず、さらにその賭けに勝つためならどんな手段でも取ろうとした。斬新で型破りな方法も率先して採用する。たとえば、便宜置籍船(節税や人件費抑制などを目的に、船主の所在国とは異なる国に籍を置く船舶)を活用した先駆者もオナシスだった。
 オナシスとほぼ時を同じくして、やはり海運業に参入してきたギリシャ人がいた。製粉業で財を成した一族出身のスタブロス・ニアルコスだ。オナシスよりも少し年下だが、マナーや思考においてはずっと常識的で洗練されていた。タバコ商人から成り上がり、浅黒い肌に白いスーツを愛用するカリスマと、裕福に育った趣味の良い御曹司とは、競い合わずにはいられない宿命のライバルだった。
 しかし生い立ちは異なっても、その頃のオナシスとニアルコスは、ともに閉鎖的な海運業界から受け入れられ、出世することを渇望していた。そのチャンスは、戦時中のニューヨークで訪れる。ヨーロッパにいられなくなったビジネスマンの多くは、第二次世界大戦の開戦とともにニューヨークに移り住んでいた。ギリシャの海運業における草分け的存在であり、すでに名を馳せていたスタブロス・リバノスもその内のひとりである。彼には王女のように育てられたふたりの美しい娘、ユージニアとアシーナ(愛称ティナ)がいた。オナシスとニアルコスは、彼女たちに未来への切符を見いだしたのだった。しかし、この瞬間に現代のおとぎ話として始まった華やかな恋物語が、まさか数十年後にはギリシャ悲劇として幕を閉じることになるとは、誰が予想できただろうか。

エスカレートしていく
奇妙な“義兄弟”関係

 当時、リバノス姉妹は、父親とともにニューヨークのセントラルパークの南にある高級ホテル「ザ・プラザ」で暮らしていた。すでに中年期に入っていたオナシスが初めて妹のティナに出会ったのは、彼女が14歳のときだった。オナシスは、ティナを初めて見たときのことを――その少し前に落馬事故にあった彼女は、松葉杖を使ってザ・プラザのロビーを歩いていた――その具体的な時間までずっと記憶していた。ふたりは3年半後に結婚したが、そのときにオナシスがティナに贈ったブレスレットには、「1943年4月17日、7PM、土曜日、T.I.L.Y.」の文字が刻まれていたという。「Tina, I Love You」の頭文字「T.I.L.Y.」は、オナシスがよくロングアイランド沖で飛ばしていたスピードボートにはためく三角旗にも記されていた。おそらく、ティナが初めてオナシスと愛を交わしたのも、このスピードボートの上だったのだろう。ティナは後年、「16歳のときに、ロングアイランド湾に浮かぶクリス・クラフトのボートの上でアリに誘惑された」と語っている。
 この頃、ティナの父親スタブロス・リバノスが気にかけていたのは、娘とオナシスの年齢差よりも、姉より妹が先に結婚したことだった。しかし妹の結婚から1年後の1947年、姉ユージニアは、2度目の離婚をしたばかりのスタブロス・ニアルコスと結婚する。それぞれに巨額の富と一大商業帝国を築き上げ、“義兄弟”となったオナシスとニアルコスだが、親しくなるどころか、ライバル心はとどまるところを知らなかった。オナシスが初のスーパータンカーを造り上げれば、ニアルコスはそれを超える当時世界最大級のタンカーを造船、オナシスが国営の航空会社を買収してオリンピック航空を設立すると、ニアルコスは巨大なヘレニック造船所を建造した。
 だが、生い立ちや服装がいくら異なろうとも、オナシスとニアルコスは、お互いが思っている以上に似た者同士だった。旧態依然としたギリシャの海運業界にあって、ふたりはともに「新しい男」であり、競い合うように派手な贅沢を好み、突然空から降ってきたように現れたからという理由で「パラシューティスト(落下傘部隊)」のあだ名を付けられていた。
 やがて、オナシスとニアルコスのライバル心は嫌悪へ、そして最終的にはあからさまな敵意へと変わっていく。オナシスは、「自分が前進しつづけられるのは、あのスタブロスの奴に対する憎しみのおかげじゃないかと思うときもあるよ」と告白しているほどだ。彼はニアルコスとの確執を隠そうとするどころか、世間に知らしめようとさえしていたのだった。

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スタブロス・リバノスの美しき娘たち。姉のユージニア(左)と妹のアシーナ(ティナ)は、父が築き上げた海運帝国の相続人であり、それぞれが世界で最も裕福な男たち、ニアルコスとオナシスと結婚した。

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オナシスと、20歳以上年下の最初の妻ティナ。1955年頃。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 01
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