Tuesday, January 27th, 2015

A MODERN GREEK DRAMA
海運王オナシスの強欲

それは過剰なまでの虚栄心、狡猾な情事と不道徳の物語。
ふたりのギリシャの海運王の出会いは、
20世紀最高の宿命の対決の始まりだった。
original text nick foulkes translation mari kiyomiya

欲しいものはすべて
金で手に入れる

 1951年5月、オナシスは、1948年に生まれた長男アレクサンダーと1950年生まれの長女クリスティーナを連れて、南仏アンティーブ岬のシャトー・ドゥ・ラ・クロエに移り住む。シャトーの名の通り、宮殿のようなその大邸宅は、かつては『王冠を賭けた恋』で知られるウィンザー公爵(エドワード8世)とウォリス・シンプソン夫人の別荘であり、廃位されたイタリアのウンベルト2世の住居でもあった(近くには、ニアルコスの別荘シャトー・ドゥ・ラ・ガループがあった)。この邸宅を購入しようと考えたこと自体、オナシスが自分を王族と同等に見ていたことの証拠といえるだろう。シャトー・ドゥ・ラ・クロエには、魚型の水栓や金色に輝く白鳥型のバスタブ、ボタンひとつで開閉する天井を備えた部屋など、オナシス好みの派手な仕掛けもあった。しかしそれすらもつかの間の満足に過ぎず、オナシスはまたすぐに新たな「おもちゃ」が欲しくなるのだった。
 後年、オナシスは自分にとっての「おもちゃ」は、ふたつしかなかったと述懐している。そのひとつが、カナダ海軍のリバー級フリゲート艦を、当時としては前代未聞の400万ドル(約4.3億円)かけて改造したヨット、「クリスティーナ号」だ。船内にはレントゲン撮影機を備えたクリニックや、昇降させるとダンスフロアに変貌するモザイクタイルのプール、マルセル・ヴェルテスやルドウィッヒ・ベーメルマンスが手がけた壁画があった。シャトー・ドゥ・ラ・クロエでとりわけオナシスを喜ばせた魚型の水栓もデザインスキームに取り入れられ、さらにラピスラズリを好んだオナシスのために、暖炉とエーゲ海の地図がこの深い藍色の石で作られた。クレタ島クノッソス宮殿のフレスコ画を模したモザイク画さえあった。
 しかし、クリスティーナ号の仕様のなかで最も有名かつ奇妙だったのは、バーのスツールかもしれない。オナシスの捕鯨船団をモチーフにしたスツールで、フットレストはクジラの歯、カバーはクジラのペニスの皮から作られていた。特にオナシスはこのペニス皮のカバーについて、クリスティーナ号に迎える婦人たちに、「マダム、あなたはいま世界最大のペニスの上に座っているんですよ」と自慢することを楽しんでいた。その婦人の中には、かの北欧のクールビューティ、グレタ・ガルボもいたそうだ。
 ヨットの全長が60フィート(約18.28メートル)でも大きいとされた時代に、クリスティーナ号は5倍以上の325フィート(99.06メートル)を誇った。金で買えるすべてのものの集合体とでもいうべきその船には、さらに5台のスピードボートと2台のカヤック、1台のグラスボトムボートが積載されていた。オナシス同様に贅沢を愛したエジプトのファルーク1世に言わせれば、クリスティーナ号は「豪華さの最高のかたち」であった。他方で、そのけばけばしさを「下品と悪趣味の極み」と評して嫌う人も多かった。後者のひとりは、クリスティーナ号に乗船したときのことをこう回想している。
 「20フィート(約6メートル)はあろうかという天井の個室で、ルイ14世様式の内装にはピンクのタフタとゴールドが多用されていました。バスルームの床までピンクの大理石でした。しかし、実に下品な趣味とはいえ、非常に快適な部屋だったことは認めざるをえません」

甘美な企みに満ちた
派手な女性関係

 オナシスの複雑な女性関係の多くは、この「浮かぶ快楽の殿堂」が舞台となる。こと有名な美女を誘惑することにかけては、オナシスのほうがニアルコスよりも優れていた。
実際、クリスティーナ号では、つねに誰かと誰かがベッドにいたり、浮気現場を見つけたりといったジョルジュ・フェドーの艶笑劇さながらの光景が繰り広げられていた。
 あるとき愛人関係にあったオペラ歌手のマリア・カラスは、オナシスの持ち物のなかにカルティエのダイヤのブレスレットがあるのを見つける。そこには「僕の愛しい人」に宛
てた手書きのカードが添えられていたため、カラスはそっとその“サプライズギフト”を元の場所に戻し、何食わぬ顔でプレゼントされるのを待つことにした。ところが、カラス
が次にそのブレスレットを目にしたのは、社交界の花でジャクリーン・ケネディの実妹でもあったリー・ラジヴィルの腕元だった。
 カラスはすぐさまクリスティーナ号のメイド長をつかまえて、リーがオナシスの寝室にいたことはあるかと問いただした。それに対するメイド長の答えは、ピーター・エヴァン
スの評伝『Nemesis: The True Story of Aristotle Onassis, Jackie O, and the Love Triangle That Brought Down the Kennedys(宿敵:アリストテレス・オナシスとジャッキー・O、そしてケネディ家を破壊した三角関係の真実)』に記録されている。いわく、「彼女に対して嘘はつきたくありませんでしたので、こう答えました。
『いいえ、Mr.オナシスの大きなベッドでお休みになられるのはマダムだけです』。もちろん私は、Mr.オナシスが別の部屋でリー様とご一緒だったことは知っていました。
何しろ大きなヨットですから」。
 周知の通り、その後カラスもラジヴィルも用済みとなり、オナシスの愛情(あるいは欲望)は、ジャクリーン・ケネディへ向けられる。オナシスが後年「我々の初めてのファック」と乱暴に表現したジャクリーンとの最初の逢瀬も、やはりブレスレットから始まるのだった。彼女の宝石箱が少々さびしいことに気づいたオナシスは、船上からヴァン クリーフ&アーペルに連絡を取り、何か適当なものを見つくろって、クリスティーナ号まで届けるように指示した。マリア・カラスは、「彼の女性への理解は、ヴァンクリーフ&アーペルのカタログで培われているのよ」と皮肉たっぷりに語った。

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当時最大のスクーナー船「クレオール号」を操るニアルコス。

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400万ドルかけて改造したクリスティーナ号のバー。スツールには、クジラのペニスの皮が使われている。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 01
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