January 2022

WHAT SLIM SAW

写真家 スリム・アーロンズが見たもの

text nick foulkes

フランス・アンティーブのホテル・ドゥ・キャップ-エデン-ロックで撮影されたアーロンズの有名な写真(1976年8月)。

 アーロンズの生前、彼はニューイングランドの祖父母に育てられたといわれていた。“スリム・アーロンズのストレートなスタイルの起源は、彼のニューイングランド人としてのルーツにある”と、彼の長年の編集者でありメンターでもあったフランク・ザカリーは書いている。

 ところが彼の死後、未亡人と娘は、会ったこともない親戚から連絡を受けて驚いた。アーロンズは、反ユダヤ主義が蔓延していた時代に、アメリカに移民してきたユダヤ人の子供だったのだ。ニューハンプシャー州ではなく、ローワーイーストサイドで生まれ、母親が施設に入れられた後、親戚から親戚へと転々としながら、問題の多い子供時代を過ごしていた。

 彼がヨーロッパの宮殿やリゾートを闊歩していたとき、それは単に写真家としてではなかった。彼は自分のバイオグラフィーをも創造していたのである。しかし、それの何がいけないというのか。彼は半世紀にわたって、自分の好きなことだけをして生きていける人々を撮影してきた。もし彼が自分の子供時代を忌み嫌っていたのなら、自分でお気に入りの思い出をでっち上げたっていいだろう。

 そう考えると、一冊の本に書かれている献辞は、とても理にかなっている。
“ジョナサンへ、
忘れるな、すべてはデタラメだ。
親愛なる、スリムより”

ハイチのホテル、プランテーション・ココヤールのプール・バーにて。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 42
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