January 2022

WHAT SLIM SAW

写真家 スリム・アーロンズが見たもの

text nick foulkes

 当時はウォーターゲート事件、オイルショック、ベトナム戦争の時代であり、アメリカ(特にニューヨーク・タイムズが代表する“高尚な”アメリカ)は、怠惰な金持ちが遊んでいる様子を撮影した、豪華絢爛な写真を見る気分ではなかったのだ。今では『A Wonderful Time』はコレクターズアイテムとなり、数千ドルで売られている。『Once Upon a Time』の初版本でも、千ドル以上はするだろう。

 そして、さらに多くの作品が準備中である。400ページを超える大判の本は、“Fat Slim”という愛称で呼ばれている。その他にも、額装や写真がプリントされたスイミング・トランクスなど、あらゆるものが売りに出されている。再評価されてから、アーロンズ・ブランドは一大産業になっているのだ。

 しかし私は幸運にも、ニューヨークから1時間ほど離れたところで、まだカントリー・ジェントルマンの生活を送っていた80代の彼に会ったことがある。私はウェストチェスター郡にある彼のファームハウスを訪れた。それは1780年代に建てられたものだった。

 そこで、半世紀前にオーストリアのウィンターリゾートで手に入れたというニットのスキージャケットを着たアーロンズが出迎えてくれた。190cmを超える高身長で、80代後半にもかかわらず、映画スターのような容姿をしていた。

左:英国でのロマンティックな舟遊びのひととき。右:クリケットの練習をするアーロンズ。

 私は、彼が往年の映画スター、ジェームズ・スチュワートによく似ていると指摘した。そう言われたのは初めてではなかったことは明らかで、彼はいつものリアクションを用意していた。茶目っ気たっぷりに「ありがとう。彼は死んだよ」とつぶやいた。スモークサーモン、クランベリーソース、チーズ、フローズングレープ、ピンクレモネードのピッチャーというランチをとった後、彼は「君が最後のインタビュアーになるだろうね」と笑った。後を追って書斎に入ると、新品のホームシアターがフルボリュームで稼働しており、その前でインタビューを行うことになった。

左から、俳優ジェームス・メイソン、レストランオーナーのマイケル・ロマノフ、女優パメラ・メイソン。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 42
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