November 2015

Top of the World

トップ・オブ・ザ・ワールド

by nick foulkes
issue02_labelleetkabete_02

縞模様のスーツとシルクハットを身に着け、サン・モリッツでボブスレーに乗るロンドンのジミー・ボットレルと仲間たち。

そして新たな時代へ その後のある日、ザ・パレスのロビーを歩いていたジャクリーン・ド・リブは、ホテル内ではもちろんのこと、サン・モリッツでも見かけるとは思ってもいなかった、ヒービー・ドーシーの姿を見つけた。

「彼女はニューヨーク・ヘラルド・トリビューンのファッションジャーナリストだった。彼女は有名人だったけど、記者であることに変わりはなかった。そこで私は、『ヒービー、もう終わりなのね、ザ・パレスは……』と言ったの。ジャーナリストが敷地内にいるのは、ザ・パレス史上初めてのことだったから」

 ザ・パレスが本当に終わってしまったわけではないにしろ、サン・モリッツが新たな局面を迎えたことは確かだった。サン・モリッツの常連たちは、ザ・パレスに宿泊する代わりに別荘を建てるようになった。初めは比較的控え目だったが、すぐに高級化が進み、シャレーはどんどんと壮麗になっていった。

 中でも、リバノス家が建てた3軒のシャレーは印象的だった。1軒目は夫人が使い、2軒目は彼女の娘ティナのために、3軒目は息子ジョージのために建てられたものだった。ある情報によると、3軒のシャレーは地下にある大きな応接間でつながっており、リバノス家の人々はそこで客をもてなしたり、映画を鑑賞したりしたという。

 こうして誕生した新たな富豪の形は、やがて今日のわれわれが知る世界へと変化する。つまり、ゲーテッド・コミュニティ、大邸宅、巨大ヨット、大人数のボディガード、厳重な警備などで形成された世界だ。それは確かに、往時よりもプライバシーが守られた空間ではあるが、いささか「小粋さ」が失われたともいえるのではないだろうか。

issue02_labelleetkabete_03

ザ・パレスで開かれた大みそかのパーティ(1958年)。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 07
1 2 3 4 5 6 7