January 2020

THE PROPHET of SOLOMEO

“ブルネロ·クチネリ”
ソロメオ村の哲学者

text wei koh photography kristina tochilko

ディスプレイされた完成品の一部とソロメオ村でくつろぐクチネリ氏。

——— かなりの量の服を慈善事業に寄付されているというのは本当ですか?

「それについてはお話ししたくありません。宣伝が目的ではありませんから。ですが寄付は行っています。私が参同する組織が、ペルーからアフリカにいたる世界各地にあります。彼らに物を送るんです」

——— 貴社の全従業員が自社製品を着られることは、なぜ重要なのでしょう?

「私にとって、社員が当社の服を原材料費のみで購入できるというのは大切です。それは、彼らの仕事を誇らしいものにします。彼らがセンスを表現するのにも役立ちます。社員食堂へランチを取りに行くと、若い男性たちが当社の服に身を包んでいますが、それぞれが自分の装いに独自の工夫を加えています。誰が最も粋かを競う、ちょっとした競争です。デザインチームで働く社員の多くは、この方法で見つけました。メンズデザインチームにファッション学校へ行った者はひとりもいません。メンバーはスタイルやコーディネイトのよさに基づいて、当社の工場から採用しました」

——— これがあなたのもとで働く人々の尊厳を回復させる理由は?

「マルクスは、労働者がいかにして労働の成果から切り離されるのかを論じ、それが深刻な不幸を引き起こすと述べました。原因は労働者が自分の仕事の生み出す最終製品を見られないことです。そこで私たちは、最終製品の姿を見られるディスプレイを工場全体に設置しています。さらに私は、ともに働く人たちに、製品を見るだけでなく、毎日身に着けて過ごせるようになってほしいと思います。これが私の信じる倫理的資本主義なのです」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 32
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