January 2020

THE PROPHET of SOLOMEO

“ブルネロ·クチネリ”
ソロメオ村の哲学者

text wei koh photography kristina tochilko

——— 世界の指導者の一部が、極端な行動に走っていますが、我々はディストピア的な世界に生きていると思いますか?

「興味深いですね。実は私はトランプ大統領が当選したことを肯定的にとらえています。彼が当選した日は、若者が政治に関心を持ち始めた日でもあります。選挙の結果、かつてないほど多くの若者が、これはまずいと思ったはずです。ローマ皇帝の歴史からわかるのは、天才が現れると、次の皇帝は決まって暴君だったということ。そして暴君が現れるたびに、天才が後を継ぐのです。これは、天才が権力の座にあるとき、我々はすぐ現状に満足するということを意味します。ですが暴君が登場すると、彼を問題視し、最終的には打倒しようとするわけです」

——— 政治、倫理などの面で、我々は現状に満足しすぎていたのでしょうか?

「個人的には、ここ30年間は私たちにとって文明危機のような時代が続いてきたと思っています。どういうわけか素晴らしい理想は影を潜めてしまった。私たちは科学と技術だけで人類を統治しようとしてきましたが、それは不可能です。ギリシャ人はアポロンの心とディオニュソスの魂を持っていました。啓蒙主義者たちはヴォルテールの心とルソーの魂を持っていました。ですから私たちは、心と魂を融合させる必要があるのです」

——— 次世代の役に立つために、我々が自分たちの失敗から学ぶ方法とは?

「私たちは若い世代に対して大きな過ちを犯しました。恐怖というメッセージを伝えたことです。失敗することへの恐怖、不十分であることへの恐怖、独り立ちすることへの恐怖。将来、この恐怖を希望に変えることができれば、人生観のすべてががらりと変わります。私の父は戦争で戦いました。祖父も戦争で戦いました。彼は飢饉にも直面しました。彼らは人生における恐るべき出来事に直面しましたが、それがこの恐怖の文化を生んだと思うのです。なぜ私たちは怯えているのでしょう? 飢饉に苦しまずに済むようになった人の、何と多いことか。世界は平穏です。そして可能性に満ちています」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 32
1 2 3 4 5 6

Contents