January 2020

THE PROPHET of SOLOMEO

“ブルネロ·クチネリ”
ソロメオ村の哲学者

text wei koh photography kristina tochilko

ソロメオ村の美しい眺め。

——— サステナビリティ(持続可能性)はラグジュアリー界の大きなテーマとなったようですが、あなたはその重要性を常に唱えていましたよね?

「私はこの“サステナビリティ”という言葉は使いたくないのです。農耕が中心だった時代、私たちは造物主と調和して暮らしていました。私たちは穀物を収穫し、木を切り倒す一方で、代わりの木を植えました。暖房のない冬もありました。動物の中で一番のごちそうはウサギでした。ウサギが寒がれば、自分たちの寝室に入れてやりました。ブドウを収穫してワインにし、オリーブを摘んで油にするなど、必要なものを使いながらも、自然が必要としているものを必ず還元したため、すべての均衡が保たれていました。畑の収穫は1年に1度。穀物や種も1年に1度だけ。ですが、今の畑は過剰に収穫されています。私の祖父はよく、“ちょうどいい量の風と、ほどよい量の霧を神がお届けくださいますよう”と言っていました。祖父が造物主にお願いしたのは、ほどよい量。つまり正しい量です。ですから私は、“サステナビリティ”という語を使うより、“ハーモニー(調和)”という語を使いたいのです。私たちが大地を大切にする限り、大地は私たちに永遠に与えてくれます。皆が忘れがちなのは、ラグジュアリー、ウール、カシミアといったものも、大地から生まれてくるということです」

“令和”はとても美しい言葉だと思います——— 均衡と調和の哲学について、より深く教えていただけますか?

「私は2019年に皇太子(徳仁さま、現・天皇陛下)に譲位なさった日本の天皇(明仁さま、現・上皇陛下)のことを考えます。日本の新たな元号は“令和”と名付けられました。これはとても美しい言葉だと思います。ジャン=ジャック・ルソーは、人は森羅万象と穏やかな関係にあるとき、クリエイティブになると述べました。今日の“サステナビリティ”という語は、ある特定のものに焦点を合わせすぎています。例えばプラスチックのように。プラスチックは重大な問題です。しかし、それはより大きく複雑な問題の一部にすぎません」

——— 貴社は工場で働く方の給料が相場より20%高いことで有名ですね。これを重視される理由は何でしょう。

「利益を得ることは大切ですが、それはともに働く仲間が尊厳を保てるようにするためです。製造過程が不当だと知っていながら、その製品を買いたいと思うでしょうか? そのような負を生み出すラグジュアリーを、どうして許容できるでしょう。利益の獲得は利益の提供と両輪をなしていなければ。私たちは、ここソロメオ村で劇場を修復していますが“これからさらに300年にわたって劇場を維持するためにお役立てください”という手紙とともに、9ユーロの寄付が届いたのです。調査してみると、寄付なさったのは隠居した高齢の女性。彼女は月500ユーロで暮らす年金生活者でした。ですが、彼女は与えることの重要性を述べられていました」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 32
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