Friday, January 24th, 2020

THE PROPHET of SOLOMEO

ソロメオ村の哲学者
“ブルネロ·クチネリ”

ブルネロ・クチネリ氏はラグジュアリー界の精神的リーダーだ。
彼は採算を重視しているが、それが人間の尊厳を犠牲にしてはならないと考えている。
また、自然から奪うのではなく、自然を満たすことの必要性を理解している。
text wei koh photography kristina tochilko

Brunello Cucinelli / ブルネロ・クチネリ
1953年生まれ。イタリア・カステルリゴーネ出身。78年に創業。会長兼CEOとして一代でブルネロ クチネリを世界的企業へと導いた。85年にソロメオ村に本社を移転。劇場や職人を養成する学校など、一大施設を設立し、地域の復興にも貢献。イタリア共和国功労勲章を受章した。

 ファウンダーとしてTHE RAKEを創刊して以来、さまざまな人に出会ってきたが、最も刺激を受けたのはラルフ・ローレン氏とブルネロ・クチネリ氏のおふたりだ。ローレン氏は私の精神的な父である。私のテイストは、彼の名を持つブランドによって形成された。彼はデザイナーをはるかに超えた存在だ。アメリカを代表するスタイルの詩人であり、さらには自分が知る最高の人間のひとりだ。

 一方、クチネリ氏に対しては、この10年間、対話するたびに尊敬の念を深めてきた。彼はラグジュアリー界において最も重要な哲学である“倫理的資本主義”に対する信念を語ってきた。

 自社の株式が公開される前(そして億万長者になる前に)、投資家に対し、目先の利益にしか興味がない場合は当社への投資はご遠慮くださいと言った。

 他のイタリアンブランドとは違い、彼は生産拠点を東ヨーロッパへ移すことはしなかった。その逆で、彼は自国の職人技を守るため、できる限りのことをしてきたのだ。

 彼にとって、自分のもとで働く人々に尊厳を与えることも大切だった。彼が従業員に相場より20%高い給料を支払っているのはそのためだ。

 彼は社員全員に対し、原材料費の価格で自社の服を購入する機会を提供している。従業員が自分の作るものを誇らしく思うことが、彼の願いなのである。

 地元で調達した農産物のみを使った、ファッション業界最高の社食ランチを従業員に提供しているのも、この理由からだ。

 彼の服が大切にしているのは、柔らかさ、解放感、心地よさ、個性、いつの時代も色あせないスタイルだ。ブルネロ クチネリのセーターやジレ、ジャケットを着るたびに、クチネリ氏の世界にプラスの影響を与えたいという願いを感じる。

 彼との対話は素晴らしい時間だった(なお、最後は娘さんであるカミラ氏のお宅のテラスで葉巻きタイムとなった)。私はこの偉大な人物から、改めて学ぶ機会に恵まれた。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 32
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