THE MAN WITH THE GOLDEN PEN

黄金ペンを持つ男

December 2022

text stuart husband

映画『007 /ドクター・ノオ』(1962年)の撮影中に初代ボンドガール、ウルスラ・アンドレスと談笑するフレミング。

 1933年、「メトロ・ビッカース事件」と呼ばれる事件を『タイムズ』紙のために取材した。これは、モスクワの地下鉄で働く6人のイギリス人技術者が、スパイ容疑で告発されたというものだ。フレミングは判決前夜に法廷に忍び込み、1本を除くすべての電話線を切断した。翌日のスクープを確実なものにするためである。彼は早くからスパイ的才能を発揮していたのだ。このソビエト連邦における取材で、フレミングは1930年代まで外務省の次官を務めていたロバート・ヴァンジタート卿の目に留まった。彼は、ソ連における外務省の「目と耳」となることを依頼された。

 フレミングは1938年に報告書を作成したが、その内容は極めて先見性のあるものであった。

「ソビエトを信用することはできないが、ナチズムを打ち負かすためにはソビエトと同盟する必要がある」

 1939年の開戦時に、海軍情報長官ジョン・ゴドフリー少将の個人秘書として抜擢された。この任命は、フレミングに大きな転機をもたらした。ゴドフリーはいつも不機嫌で喧嘩っ早い性格だったが、フレミングを気に入り、すぐに少佐に昇進させた。そしてMI5、MI6、SOE(特殊作戦執行部)などの他部門と連携をとらせた。つまりフレミングは大戦下における英国の諜報活動のすべてを把握していたのだ。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 48
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