Monday, May 27th, 2019

THE GRITTI PALACE : RESTORER OF THE SOUL
ヴェネツィアが誇る名ホテル
楽しき、グリッティ パレス

高潮との戦い
「私たちは15カ月ですべてを行わねばなりませんでした。最初に取り組む必要があったのは、高潮に対する防護設備を修理することでした。床をすべて破壊し、深さ2mの穴を掘ることになりました。当ホテルは元々、1525年に建てられた邸宅で、1948年にグリッティになったのですが、そのときすでに建物の下にはコンクリートの補強材があったのです。皆さんは、水はドアから入ってくると思われがちですが、実はそうではない。非常に高い水圧のために、実際は床そのものから染み込んでくるのです。高潮時のサン・マルコ広場をご覧になれば、おわかりいただけるでしょう。そこで私たちは、80cmのコンクリートを用いて、建物の下にプール状の構造物を作りました。これが水の侵入を防ぎます。それに最初の3カ月を要しました」
 グリッティは大運河沿いに建っているが、修復以来、アクア・アルタ(高潮)による浸水の被害をほとんど受けていない。
「次は屋上に取りかかりました。当時は大運河を見下ろす場所に、小さな客室が2つある状態でした。そこで私は“この2部屋をひとつのスイートにしてはどうだろう”と思いついたのです。そうすれば、部屋から250m2ある屋上のテラスへ行けるようになります。おかしなことに、このテラスはそれまでまったく使われていませんでした。レデントーレ教会を見下ろす場所にあるため、私はレデントーレ・テラスと名付けました。この部屋は、小ぢんまりしたスイートでありながら、階上へ行けばヴェネツィア随一の見事なプライベートテラスがあるという、特別な一室になりました。プライベートプールを設けることも考えたのですが、承認を得られませんでした。取り外し可能という理由でジャグジーは設置できました。このスイートとテラスは、特別なお客様や、最大80名規模の結婚式、プライベートディナーを想定しています」
 ロレンツォーニ氏が行った変更は巧妙で、見てもわからないことが多い。
「昔からグリッティは、ヴェネツィアの職人たちが作品を披露する場でした。特に有名なものが、シルクのダマスク織です。美しい紋様を描くこの素材を使い、家具や時には壁面まで布張りにします。ですが修復当時、既存のダマスク織は消防法に適合しなくなっていました。そのため、ルベリの職人たちと協力し、美しさを損なうことなく耐炎性を持つ新しい織物を製作しました。修復前に使い残していた織物は、スリッパに加工し、記念品としてお得意様にお送りしました。お客様は、社交クラブの会員証としてそのスリッパを持参し、バーへ履いていくことを好まれます」
 修復時、ロレンツォーニ氏はホテルを休業して、作業を迅速化することにした。
「私たちはすべての絵画や家具を保管しました。温度と湿度を一定に保った巨大容器に、あらゆるものを入れました。その後、2012年9月にすべての品を取り出し、インテリアデザイナーと協力してもとの場所へ戻しました。オープン予定日は2013年2月1日でした。私が達成した最高の成果は、もとのスタッフがほぼ全員残ったことだと思います。グリッティが特別である理由をお客様にお尋ねすると、皆『スタッフです』とおっしゃる。ここで働くチームは『世界最高でありたい』と思っています。お客様が当ホテルに到着されると、たとえ初めての方であっても、スタッフはお名前を呼んでご挨拶します」

グリッティは会員制クラブ
「ここは自らの家のように感じられるべき場所です。一度ここへお越しになれば、コンシェルジュや給仕長、バーテンダーは友人であるかのように接するでしょう。二、三度お越しになれば、もうわれわれの家族です。これは小さな規模がもたらす強みです」
 ハイシーズン中にグリッティでバーやテラスのテーブルを確保するのは、まるで競争だ。ロレンツォーニ氏はこう話す。
「ヴェネツィアに来たら、ハリーズ・バーは外せませんが、当ホテルのテラスを訪れて、かつてアーネスト・ヘミングウェイが『河を渡って木立の中へ』を執筆した場所でベリーニを飲むのも定番になっています。私は同書の初版本を3冊見つけ、ヘミングウェイ・スイートに置きました。どういうわけか、そのうち2冊がなくなったため、最後の1冊をガラスケースに入れたのです。ハイシーズンには、多くの方がテラス席が空くのをお待ちになります。そこで私たちは、4月から7月にホテルを予約されるお客様には、テラスのご予約もおすすめしています。そうでないと売り切れてしまいますから。ビジネスの60~70%は、アマンやチプリアーニに滞在される外部のお客様によるものですが、私たちは当ホテルのお客様を優先するようにしています。夏の夕暮れ時にテラスに座っていると、いまだにうっとりしますね。ここを超える場所はありません」
 THE RAKE読者の方々がグリッティを大いに敬愛していることをご存じですかと尋ねると、氏はこう話した。
「例えば、もしあなたがヴェネツィアに日帰りで来られても、当ホテルのバーへお越しになれば、多分お知り合いに会うでしょう。そしてその方は、あなたと気が合い、一緒にいると楽しく感じられる方でしょう。なぜなら、その方は例外なく、グリッティの美と魅力を理解なさっているタイプの人物だからです」
 おっしゃる通り。私にとって、グリッティに対する、理性を超えた深い愛着の有無は、友人になれるかどうかのリトマス試験紙なのだから。

グリッティ パレスは昔からは、多くの文人や芸術家に愛された。ここはザ・サマセット・モーム・ロイヤルスイート。

実際に定宿としていたアーネスト・ヘミングウェイをモチーフとしたザ・ヘミングウェイ・プレジデンシャル・スイート。

THE GRITTI PALACEホテル グリッティ パレス
Campo Santa Maria del Giglio, 30124 Venezia Italy
TEL.+39 041 794611 www.marriott.co.jp/

ヴェネツィアを代表する名ホテル。現在はマリオット系のラグジュアリーコレクションホテルに属し、世界中からゲストを迎えている。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 28
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